アウローラ駆ける!
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
吉野ヶ里の外縁部。
日が落ちかけた遺跡の空気は、昼間とはまるで別物だった。
風が止み、虫の声すら遠い。
まるで世界が、息を潜めてこちらを窺っている。
「……来るな」
レオが低く呟いた。
その直後、地面がわずかに震えた。
振動は不規則で、自然現象とは明らかに違う。
「哲人、乗れ!」
マックスの声に背中を押され、僕と憂はアウローラへ飛び込んだ。
球体に近いカプセル状の装甲が閉じ、外界の音が遮断される。内部は狭いが、不思議と落ち着く空間だった。計器類は直感的でありながら、どこか“人間向けではない”配置をしている。
「起動、いくぞ!」
マックスがレバーを引く。
アウローラは低く唸り、キャタピラが地面を噛んだ。
振動が体に伝わり、心臓の鼓動と重なる。
遺跡の影から、異形が姿を現した。
人の形を模してはいるが、関節の数が合わない。
動きはぎこちなく、それでいて速い。
「旧支配者の残骸……」
レオの声が、わずかに硬い。
「完全体ではないが、厄介だ」
「厄介で済むなら、ありがたいね!」
マックスがアクセルを踏み込む。
アウローラは跳ねるように前進し、瓦礫を乗り越えた。
短距離ホバーが起動し、地面から浮く。視界が一瞬、上下に揺れた。
「すごい……!」
憂が小さく息を呑む。
その瞬間、アウローラの挙動が微かに変わった。
計器の一部が、淡い碧色に染まる。
「哲人、何かやったか?」
「いや……!」
僕は必死にモニターを見る。
見慣れない波形。だけど、どこか“懐かしい”。
「……同期してる?」
口から漏れた言葉に、レオが反応した。
「まさか……彼女と?」
憂は何もしていない。ただ、胸元のレムリアを握りしめているだけだ。
異形が跳躍した。
空中で形を崩し、無数の触手のようなものを伸ばしてくる。
「来るぞ!」
マックスが急旋回。
アウローラは横滑りしながら、瓦礫の陰へ逃げ込んだ。
触手が地面を叩き、土砂が舞う。
「くっ……!」
僕は思わず操作盤に手を伸ばしていた。
「ここ、出力が足りない……。でも、流れを変えれば――」
理解していない。
それでも、“こうすればいい”気がした。
操作を加えると、アウローラの底部が強く光る。
次の瞬間、通常より長いホバー跳躍が発生した。
「跳んだ!?」
マックスが驚きの声を上げる。
アウローラは異形の頭上を越え、背後へ回り込んだ。
「今だ!」
シャーロットの指示が飛ぶ。
財団の支援ドローンが、周囲から一斉に光を放つ。
だがそれは、攻撃ではなかった。
偽りの光。
異形は一瞬、動きを止める。
まるで、“神の裁き”と勘違いしたかのように。
「……錯覚を利用してる」
レオが静かに言う。
「奴らは“光”に弱いのではない。
“意味”を誤解する」
その隙に、アウローラは全速で離脱した。
遺跡を抜け、夕闇の中へ滑り込む。
追撃は、なかった。
車内に、荒い息が残る。
「はは……やるじゃねぇか、アウローラ」
マックスが笑った。
シャーロットは、憂を見つめていた。
「……あなたが近くにいると、機体の反応が違う」
憂は戸惑ったように首を振る。
「私、何も……」
「ええ。だからこそ、です」
意味深な言葉。
僕は、胸の奥がざわつくのを感じていた。
今日の戦いは、勝利ではない。
逃げ切っただけだ。
それでも、確かなことが一つある。
――アウローラは、“人の船”だ。
理解できない力を、理解できないまま真似て、
それでも前に進こうとする。
その姿は、どこか僕自身に重なっていた。
夜空を見上げると、星が一つ、やけに明るく瞬いていた。
それが、見守っているのか。
それとも、狙っているのか。
まだ、誰にも分からない。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




