神話の檻
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
収容室は、
静かすぎるほど静かだった。
壁は白く、
角がなく、
音を吸い込む。
――優しすぎる檻。
僕は、
その中央に座っていた。
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手錠は外されている。
扉も、
鍵が見えない。
それでも。
(……逃げられない)
直感が、
そう告げていた。
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ガラスの向こう。
観測用の影が、
いくつも動く。
視線は、
僕ではなく――
“何か”を見ている。
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「……僕は……」
声に出す。
「神なんかじゃ……」
言葉は、
壁に吸われて消えた。
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その時。
照明が、
わずかに落ちる。
扉が、
静かに開いた。
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入ってきたのは、
シャーロットだった。
黒いスーツ。
感情を封じた顔。
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「……説明は?」
僕は、
立ち上がらなかった。
立てなかった。
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「必要最低限に留めるわ」
淡々とした声。
「あなたは、
“神話的共鳴者”と判断された」
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「……何ですか、それ」
「憂と、同調する存在」
一切の揺らぎがない。
「それ以上でも、
それ以下でもない」
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(……同調……)
胸の奥が、
ずきりと痛む。
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「彼女は、どうしてるんですか」
シャーロットは、
一瞬だけ、間を置いた。
「……安定していない」
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その言葉で、
全てを察した。
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「……僕のせいですか」
問う。
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「いいえ」
即答だった。
「あなたは、
選ばれてしまっただけ」
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拳を、
強く握る。
(……選ばれた……)
それは、
責任を与えない言葉。
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その頃。
隔離区画のさらに奥。
憂は、
暗い部屋に立っていた。
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照明は、
最低限。
影が、
濃く伸びる。
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『見ただろう』
影の声。
『彼は、檻に入った』
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「……私のせい……」
呟く。
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『違う』
声は、
淡々としている。
『君が拒んだからだ』
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「……違う……」
涙が、
頬を伝う。
「……守りたかった……」
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『なら、答えは一つだ』
影は、
優しく囁く。
『神として、立て』
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レムリアが、
淡く光る。
憂は、
それを見つめる。
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(……この光を、使えば……)
(……彼は、解放される……)
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「……でも……」
唇が、
震える。
「……それをしたら……」
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影は、
言葉を遮らない。
答えを、
待っている。
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収容室。
シャーロットは、
扉の前で立ち止まった。
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「哲人」
振り返らずに、言う。
「これだけは、覚えていて」
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「……?」
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「私は、
あなたを敵として扱う」
静かな声。
「それは、
あなたを“人”として
守るためよ」
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理解できない。
それでも。
――嘘ではないと、
分かってしまう。
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扉が、
閉じる。
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僕は、
天井を見上げた。
白い天井。
どこまでも、
逃げ場のない白。
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(……憂……)
名前を、
心の中で呼ぶ。
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遠く。
確かに。
彼女の鼓動が、
重なった気がした。
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神話は、
檻を作った。
神を閉じ込めるためではない。
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人を、神にしないために。
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だが。
その檻は、
もう――
限界を迎えている。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




