祈りが生む歪み
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
昼下がりの空は、
不自然なほど青かった。
雲一つない。
まるで、昨日までの出来事が
最初から存在しなかったかのように。
だが――
町の空気は、明らかに違う。
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僕は、商店街を歩いていた。
シャッターが閉まった店。
人影の少ない通り。
皆、同じ方向を避けるようにして歩いている。
(……あそこだ)
昨日の、テントのあった場所。
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近づくにつれ、
空気が重くなる。
目に見えない圧力。
耳の奥が、
じんと痺れる。
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テントは、
撤去されていた。
代わりに――
簡素な祭壇。
花。
白い布。
そして、碧い星を象った紋章。
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「……増えてる」
人は、昨日より多い。
だが、
声がない。
誰もが、
息を殺すように祈っている。
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「裁きの星よ……」
誰かの声が、
小さく震える。
「どうか……怒りを鎮めて……」
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胸が、
締め付けられる。
(……怒り?)
誰も、
怒らせた覚えなんてないはずだ。
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その瞬間。
人混みの中で、
一人の男が倒れた。
「……っ!」
周囲が、どよめく。
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「罰だ……」
誰かが、呟く。
「神罰だ……」
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僕は、
反射的に駆け寄った。
「大丈夫ですか!」
男は、
息が荒い。
目が、焦点を結ばない。
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「……見た……」
掠れた声。
「光を……拒んだ……」
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背筋が、凍る。
(……憂……)
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その時。
視界の端で、
影が揺れた。
人々の視線が、
一斉に、僕に集まる。
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『いい反応だ』
あの声。
ナイ。
『恐怖は、信仰を育てる』
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「……やめろ……」
心の中で、叫ぶ。
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『君は、無関係ではない』
『彼女と、繋がっている』
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頭の奥で、
何かが――弾けた。
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一瞬。
世界が、
静止する。
人々の動きが、
遅くなる。
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僕の足元に、
淡い光が滲む。
碧色。
(……なに、これ……)
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『触れたな』
影が、
愉しげに言う。
『神性の縁に』
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「……違う……!」
後ずさる。
だが、
光は消えない。
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隔離区画。
憂は、
突然、胸を押さえた。
「……哲人……?」
名前が、
自然と零れる。
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視界に、
彼の姿が浮かぶ。
町。
祭壇。
人々の祈り。
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「……繋がった……」
レムリアが、
弱く光る。
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『拒んだはずだ』
影が、囁く。
『だが、完全には切れない』
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「……お願い……」
憂は、
必死に首を振る。
「……彼を、巻き込まないで……」
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『なら、選べ』
声が、
冷たくなる。
『神として、立つか』
『人として、失うか』
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憂は、
歯を食いしばった。
答えは、
決まっている。
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「……彼を、守る」
震えながらも、
はっきりと。
「……それが、人であるってことだから」
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町では。
僕の足元の光が、
ゆっくりと消え始めていた。
人々が、
息を呑む。
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「……今の……」
「怒りが……収まった……?」
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ざわめき。
安堵。
そして――
感謝の視線が、僕に向く。
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(……やめてくれ……)
心の中で、
叫ぶ。
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遠く。
隔離区画で、
憂は倒れ込んだ。
息が、苦しい。
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『選んだな』
影が、
低く言う。
『代償は、後で支払え』
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空は、
相変わらず青い。
だが。
人々の心に、
新しい神話が刻まれた。
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裁きは、拒まれ。
祈りは、歪み。
そして――
神と人の境界に、
哲人の名が刻まれ始めた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




