偽りの祈り、歪む世界
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
雨は、
予兆もなく降り始めた。
夕暮れの色を塗り潰すように、
重たい雲が空を覆う。
研究施設の外灯が、
濡れた地面に滲んで揺れていた。
僕は、
その光の中を歩いていた。
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(……嫌な感じだ)
理由は、分からない。
ただ、
世界そのものが、
少しだけ――ずれている。
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町へ続く道路の向こう。
簡易的なテントが、
いくつも並んでいた。
白い布。
控えめな照明。
「……こんな所に?」
立て看板には、
穏やかな文字が並ぶ。
――
《心の救済集会》
《誰でも参加自由》
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(宗教……?)
あの警告が、
脳裏をよぎる。
足が、
自然と止まった。
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テントの中から、
声が聞こえる。
静かで、
やけに心地いい声。
「恐れる必要は、ありません」
「この世界は、
選ばれし者によって守られている」
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胸が、ざわつく。
(……誰の、ことだ?)
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覗き込むと、
中央に立つ人物が見えた。
白い衣。
年齢も性別も、
判別しにくい。
だが――
目だけが、異様に澄んでいる。
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「星は、再び目覚める」
「裁きの光は、近い」
その言葉に、
集まった人々が息を呑む。
(……裁き?)
背筋が、冷たくなる。
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その瞬間。
胸の奥で、
何かが――軋んだ。
視界が、一瞬、歪む。
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(……今の、何だ?)
耳鳴り。
世界が、
一拍遅れて戻る。
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「……っ」
思わず、膝をつく。
その時。
テントの中の人物が、
こちらを見た。
――目が、合った。
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微笑む。
慈愛に満ちた、
完璧な笑顔。
だが――
その奥に、何もない。
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『……見つけた』
声は、
頭の中に直接響いた。
『やはり、君か』
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(……この声……)
あの、影。
ナイ。
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『安心しろ』
『私は、敵ではない』
『君たちを、救いたいだけだ』
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「……嘘だ」
小さく、呟く。
だが、
声は震えていた。
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『嘘をついているのは、誰だ?』
『財団か?』
『それとも――』
声が、低く沈む。
『神を、少女に縛り付けている存在か』
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視界に、
憂の姿が浮かぶ。
隔離室。
冷たい壁。
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「……やめろ……」
『彼女は、檻にいる』
『神は、檻に入れるものではない』
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頭を、強く押さえる。
雨が、
冷たく背中を打つ。
(……違う……)
(……シャーロットさんは……)
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その時。
テントの中で、
人々が一斉に祈り始めた。
「裁きの星よ――」
「我らを、導き給え――」
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その言葉に。
胸の奥が、
強く、反応する。
(……レムリア……?)
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遠く。
隔離区画。
憂は、
突然、胸を押さえた。
「……っ……」
息が、詰まる。
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頭の中に、
知らない光景が流れ込む。
燃える街。
祈る人々。
そして――
天から降る、碧い光。
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「……裁きの、光……」
無意識に、
言葉がこぼれる。
レムリアが、
強く脈打つ。
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『思い出せ』
影が、
優しく囁く。
『それは、君の役目だ』
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「……違う……」
涙が、頬を伝う。
「私は……人間……」
⸻
だが。
心の奥で、
もう一つの声が答えた。
――神だ。
⸻
同時刻。
シャーロット財団・監視室。
警報が、
静かに鳴る。
「理事長」
レオが、低く言う。
「未登録宗教団体、
精神干渉レベルが急上昇しています」
⸻
シャーロットは、
モニターを見つめていた。
そこには、
雨の中に立つ僕の姿。
「……始まったわね」
静かな声。
「“神話の再教育”が」
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マックスが、
歯を噛みしめる。
「……クソッ」
「守るんじゃなかったのかよ……」
⸻
「守っているわ」
シャーロットは、
目を逸らさない。
「だからこそ、
私は敵になる」
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雨は、
激しさを増していた。
偽りの祈りが、
世界を歪める。
そして。
神と人の境界が、
静かに、
しかし確実に――削れていく。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




