世界の応え
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
星舟ノア・レムリアは、有明海上空の観測距離に到達していた。
干渟は、遠目には何事もなかったかのように見える。
夜明けの光が、水面に淡く反射している。
だが――
計器は、静かに異常を示していた。
「……反応、変わりました」
ルーナの声が、わずかに震える。
「教団由来じゃない。
これ、地球側の応答です」
マリアが即座に補足する。
「外部干渉に対する防御でも、拒絶でもない。
もっと……自然現象に近い」
星図が切り替わる。
問題の座標を中心に、細い波紋が広がっていく。
「……安定していく?」
哲人が呟く。
「はい。でも“元に戻る”わけではない」
ルシアンは、静かに言った。
「世界が、折り合いをつけ始めている」
その瞬間だった。
憂が、はっと息を呑む。
胸の奥で、何かが――
ほどけるような感覚。
「……違う」
彼女は、小さく首を振った。
「呼ばれてない」
全員が、彼女を見る。
「さっきまでのは、
“来い”っていう感じだった」
憂は、言葉を探すように続ける。
「でも、今のは……
**“そこにいていい”**って」
誰も、すぐには理解できなかった。
マリアだけが、ゆっくりと頷く。
「……なるほど」
端末を操作しながら、低く言う。
「世界は、あなたを“資源”として見ていない。
干渉者でも、修復装置でもない」
「じゃあ、何だって言うんですか」
タケルが問う。
マリアは、一瞬だけ言葉を選び――答えた。
「座標です。
でも、固定するためのものじゃない」
ルシアンが、静かに続ける。
「戻れる場所がある、という事実そのもの」
星舟の外で、光が揺れた。
それは門でも、歪みでもない。
ただ、夜明けの空が、ほんの一瞬だけ色を変えた。
干潟に取り残されていた漁船の周囲で、
潮が、ごく自然に満ち始める。
位置は変わらない。
だが、生活が続けられる形へと、環境が調整されていく。
「……事件が、事件じゃなくなっていく」
ルーナが、信じられないように呟く。
「教団の“問い”が、成立しなくなってる」
ルシアンは、深く息を吐いた。
「世界が先に答えた、ということだ」
憂は、胸に手を当てる。
怖さは、まだある。
でも、それ以上に――
「……私」
小さく、しかし確かな声。
「使われなくても、
消えなくても……」
顔を上げる。
「ここにいていいんだ」
誰も、否定しなかった。
星舟は、そのまま動かない。
介入もしない。
撤退もしない。
ただ、在り続ける。
その選択に、
世界は――初めて、静かに応えた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




