教団側の想定外
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
静寂は、計算の内側にあったはずだった。
無貌教団の中枢。
幾層にも重なる情報投影の奥で、観測装置が淡く明滅している。
「……再計測を」
ナイの声は低く、感情を含まない。
投影されていた因果曲線が、ゆっくりと書き換わる。
想定されていた“収束点”が、わずかに――だが確実に――外れていた。
「誤差、許容範囲内では?」
側に控える影が言う。
「世界はまだ、我々の影響下にあります」
「違う」
ナイは即座に否定した。
「影響下にはあるが、誘導下にはない」
指先が宙をなぞる。
憂に関する予測線が、途中で途切れている。
「本来なら、ここで“鍵”は反応する。
恐怖、拒絶、あるいは依存――
いずれかに傾くはずだった」
別の影が、僅かに首を傾げる。
「だが、反応がない」
「いや……」
ナイの声が、わずかに低くなる。
「拒絶された」
空間が、一瞬だけ軋んだ。
「星舟は、彼女を使わなかった。
それは予測外だ」
影の一つが、興味深そうに言う。
「では、修正を?」
「いや」
ナイは、ゆっくりと首を振る。
「修正ではない。
条件が変わった」
投影が切り替わる。
星舟ノア・レムリアを中心に、細い線が世界へと伸びていく。
「彼らは“守る範囲”を選んだ。
個ではなく、構造を」
「非効率です」
「だからこそ厄介だ」
ナイは、初めてわずかに笑みのようなものを浮かべた。
「英雄でも、反逆者でもない。
在り続ける側を選んだ」
沈黙。
「……面白い」
影の一つが呟く。
「では、次は?」
「試験を一段階上げる」
ナイは淡々と告げた。
「今度は、回収ではない。
選択を迫る状況を用意する」
投影の一角に、新たな光点が浮かぶ。
星舟からは遠く、しかし――
憂の“感覚”だけが、微かに触れる距離。
「彼女が選ばずにいられない場を作る。
それでもなお、使われなければ――」
言葉は、そこで途切れた。
続きは、誰もが理解していた。
「……世界そのものが、応答する」
ナイは背を向ける。
「準備を。
次は“事件”として成立する」
光が落ち、観測空間は再び沈黙に包まれた。
だが、その沈黙はもはや完全ではない。
星舟の選択は、
確かに――向こう側に届いていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




