作戦会議
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
会議室の照明は、ブリッジよりも一段落とされていた。
星図が、円卓の中央に立体投影される。
無数の光点――星だけでなく、地上各地の“微弱事象”が淡く点滅していた。
「これが、現在までに確認された事象一覧です」
ルシアンの声は、静かだが重い。
「いずれも事件とは呼べない。
被害も、直接的な異常もない。
だが――」
指先で一つの光点をなぞる。
「発生条件が揃いすぎている」
マリアが続きを引き取る。
「共通項は三つ。
第一に、歴史的・信仰的・記憶的な“重なり”を持つ土地。
第二に、人の意識が弱くなった瞬間。
第三に……」
一拍置いて。
「“呼ばれなくなった”痕跡」
タケルが椅子にもたれ、腕を組んだ。
「つまり、教団は――」
「破壊してない」
「……選別してる?」
その言葉に、室内が静まる。
ルーナが小さく息を吸う。
「回収、ですよね。
85話で起きた“座標の解消”と、同じ種類」
ルシアンは頷いた。
「だが決定的に違う点がある」
全員の視線が集まる。
「憂は介在していない」
沈黙。
「教団は、こちらを待たずに動き始めた。
それはつまり――」
マリアが、ゆっくりと言葉を継ぐ。
「“彼女がいなくても出来ること”を、先に済ませている」
哲人は、無意識に拳を握った。
「……それって」
「ええ」
ルシアンの声が低くなる。
「憂が関わると、出来なくなることがある
そう理解している、ということだ」
その瞬間、会議の意味が変わった。
これは戦術の話ではない。
立場の話だ。
「守る範囲を、決めなければならない」
ルシアンは、円卓を見渡す。
「世界全体か。
憂か。
あるいは――選ばせない、という選択か」
タケルが苦く笑った。
「一番難しいやつだな」
「でも、一番“人間的”です」
ルーナが静かに言う。
マリアは、少しだけ目を伏せてから、はっきりと告げた。
「私は――
憂を“鍵”として使う作戦には反対します」
即答だった。
「それが正しいとしても、
それは“勝つ”ための判断であって、
“守る”判断じゃない」
哲人は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
ルシアンは、しばらく何も言わなかった。
やがて、深く息を吐く。
「……同意する」
全員が顔を上げる。
「我々は、教団と同じ土俵には立たない。
憂を使わない」
星図の表示が変わる。
中心にあった憂の識別マーカーが、消える。
「代わりに――」
ルシアンは、新たな範囲を示した。
「世界が“削られる”兆候そのものを、先に潰す」
それは、遠回りで、非効率で、
おそらく危険な道だ。
だが。
「……それでいい」
憂が、静かに言った。
全員が振り返る。
「私、守られるだけの存在でいたくない。
でも、誰かを犠牲にしてまで進むのも、嫌」
彼女は、まっすぐルシアンを見る。
「だから……
一緒に、間に立たせてください」
一瞬の沈黙のあと、ルシアンは微笑んだ。
「了解した」
それは命令でも、作戦でもない。
仲間としての合意だった。
星舟ノア・レムリアは、進路を再設定する。
敵を倒すためではない。
世界を救うためでもない。
――削られないために、在り続ける。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




