前哨接触
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
歪みは、完全に閉じたわけではなかった。
星舟ノア・レムリアの背後、虚空に残った“傷跡”が、ゆっくりと薄れていく。
「消えた……?」
ルーナが呟く。
「いや、引き上げただけだ」
マリアは端末を操作しながら首を振った。
「向こうは十分なデータを取った。
目的は達成された、という顔をしてる」
ブリッジに、重い沈黙が落ちる。
「つまり――」
タケルが嫌そうに言う。
「次は“本気”で来るってことか?」
「可能性は高い」
ルシアンは腕を組み、静かに前方を見据えた。
「だが、向こうにも誤算はある。
こちらが星舟を失っていないこと
そして――」
一瞬、視線が後部へ向く。
「憂が、ここにいることを
完全には測りきれていない」
――その頃。
遮蔽区画の片隅で、哲人は憂の隣に座っていた。
「……大丈夫か?」
憂は少し間を置いてから、頷く。
「怖くない、って言ったら嘘になるけど……
でも、前よりは」
「前?」
「一人じゃないから」
哲人は、何と返せばいいのか分からず、ただ照明を見上げた。
「さっきの“門”、見た瞬間……
胸の奥が、ざわっとしたの」
憂は、自分の胸にそっと手を当てる。
「知らないはずの場所。
知らないはずの光景。
でも、“忘れてた”感じがした」
「思い出しそう、ってこと?」
「ううん……」
憂は、ゆっくり首を振る。
「思い出したら、何かが終わる。
そんな気がしただけ」
その言葉に、哲人の喉が詰まる。
――一方、遠く離れた場所。
無機質な空間に、淡い光が揺れていた。
「観測、完了」
人の形をした影が、くぐもった声で告げる。
「対象は、未覚醒。
だが――」
別の影が、くすりと笑う。
「“器”は健在か。
やはり、完全な消失は不可能だったな」
中央に立つ影――
ナイと名乗る存在が、静かに言った。
「焦る必要はない。
世界は、まだこちらを知らない」
指先が、虚空をなぞる。
「次は“試す”。
守る者ごと、な」
光が、ゆっくりと闇に溶けていった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




