亀裂の始まり
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
星舟ノア・レムリアは、再び航路に乗った。
先ほどまでの異常は、記録上は「未確認接触・短時間」で処理されている。
だが、ブリッジにいる誰もが理解していた。
あれは終わっていない。
「……本当に、行っちまったのか?」
タケルが、誰にともなく言う。
「去った、というより」
ルシアンが淡々と訂正する。
「“十分確認した”という態度だった」
哲人は黙ったまま、前方スクリーンを見つめていた。
星々が流れていく。
だが、胸の奥に、何かが引っかかっている。
――あなたは関係ない。
その言葉だけが、何度も反響していた。
「哲人」
マリアが、静かに声をかける。
「怒ってる?」
「……分からない」
正直な答えだった。
怒りよりも、
切り取られた感じが近い。
「関係ないって、何だよ……」
憂は、少し離れた場所で窓の外を見ている。
哲人の方を、振り返らない。
「憂」
呼びかけると、ようやく彼女は顔を向けた。
「さっきの……あいつの言葉」
「うん」
「俺、本当に関係ないのか?」
その問いは、思っていたより弱く響いた。
憂は、少し考えてから答える。
「“向こう側”から見れば、そうなのかも」
哲人の胸が、ちくりと痛む。
「でも」
憂は続けた。
「私にとっては、違う」
短い一言だったが、確かだった。
タケルが、わざとらしく咳払いをする。
「はいはい、空気重くしない」
「問題はそこじゃねえ」
ルーナが、操作パネルを操作しながら言う。
「教団の動きが変わってる」
「どう変わった?」
「焦ってる」
全員の視線が集まる。
「さっきの接触」
「多分、教団も“観測”してた」
ルシアンが頷く。
「だが、意味を誤解している可能性が高い」
「どう誤解する?」
「憂が“回収対象として確認された”と」
哲人は、即座に言った。
「狙われるってことか」
「正確には」
マリアが言葉を継ぐ。
「奪われる前に、動く」
ブリッジの空気が、さらに引き締まる。
「次は戦闘?」
タケルが聞く。
ルシアンは首を横に振った。
「事件だ」
「世界側を巻き込む形で来る」
憂は、そのやり取りを聞きながら、ふと呟いた。
「……時間がある、って言ったよね」
「え?」
哲人が振り返る。
「“まだ時間はある”って」
「多分、あれは慰めじゃない」
全員が、彼女を見る。
「期限はある」
「でも、今すぐじゃない」
「じゃあ、いつだ?」
憂は、少しだけ目を伏せた。
「私が、思い出した時」
その言葉の重さに、誰も返せない。
哲人は、強く言った。
「思い出さなきゃいい」
憂は、微かに笑った。
「それは、無理」
「どうして?」
「もう、始まってるから」
星舟は、静かに進む。
その先にあるのは、
教団の次の一手。
そして――
誰も知らない形で近づく、マリアの悪夢。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




