静かな2人の刻
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
夜は、思ったより静かだった。
遠くで波の音がしている。
それが本物なのか、星舟ノア・レムリアの環境制御が再現した擬似音なのか、哲人には分からない。ただ、耳に心地よかった。
焚き火はもう消えている。
炭だけが、赤く、かすかに名残を残していた。
「……静かだね」
隣に座る憂が、ぽつりと言った。
哲人は頷く。
言葉を返そうとして、やめた。
今は、何かを説明するよりも、この沈黙そのものが必要な気がした。
星舟の外壁越しに、星が流れる。
地球の夜空とは違う、どこか整いすぎた光景。
「前はさ」
哲人が、ようやく口を開く。
「こういう場所に来たら、もっとテンション上がると思ってた」
憂は、少しだけ首を傾げる。
「でも、今は?」
「……落ち着く」
自分でも意外な答えだった。
冒険。戦い。追われる日々。
それらの合間に、こうして何も起きない時間があることが、少しだけ救いに思えた。
憂は何も言わず、星を見ている。
彼女の横顔は、相変わらず現実感が薄い。
すぐ隣にいるのに、触れたら消えてしまいそうな距離感。
「ねえ、哲人」
「ん?」
「もし……全部終わったら」
その言葉に、哲人の背中がわずかに緊張する。
「終わったら、どうしたい?」
すぐには答えられなかった。
世界が終わるとか、終わらないとか、そういう話じゃない。
“自分の物語が一区切りついたあと”を、初めて考えさせられた気がした。
「都市伝説、かな」
憂が小さく笑う。
「やっぱり?」
「うん。バカみたいだけどさ」
「何も起きなくても、調べるのは楽しいし」
それは、彼の原点だった。
戦艦も、神の力もない、ただの少年だった頃の。
憂は、少し間を置いてから言った。
「……それなら、きっと」
「?」
「また、どこかで会えるね」
その言い方が、あまりにも自然で。
哲人は、なぜか胸の奥がざわついた。
「今じゃなくて?」
「今は……一緒にいる」
憂はそう言って、哲人の肩に、ほんの少しだけ寄りかかった。
星舟の中で、夜は静かに進んでいく。
戦いの予兆も、警報もない。
ただ、次の局面へ向かうための、短い休止符。
遠くのブリッジでは、
マリアがコンソールを見つめ、
ルシアンが黙って航路を確認している。
それぞれが、それぞれの役割を自覚しながら。
そして星舟は、次の座標へ向けて、音もなく進路を取った。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




