【第6章】本当の冒険の始まり
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
ワゴン車の後部座席は、思っていたよりも広かった。
「……やっぱり、仕事用ですね」
哲人がそう言うと、マックスが得意げに胸を張る。
「だろ? 長時間張り込み仕様だ。
飲み物もあるし、非常食も――」
「喋るな」
前席から、レオの低い声が飛ぶ。
マックスは口を閉じたが、すぐに後悔したような顔になる。
「……いや、今のは喋らない方が逆に気まずいだろ」
「黙っていろ」
そんなやり取りを横目で見ながら、哲人は小さく息を吐いた。
――変わってないな、この人たち。
隣の席に座る少女は、窓の外を見ている。
流れていく街並みを、どこか懐かしそうに。
「どこに向かうんですか?」
哲人の問いに、レオが短く答える。
「一度、拠点へ。
今回の件は、想定より動きが早い」
「教団、ですか」
「断定はしない。
だが、“無貌”の痕跡が出ている以上、無関係とは思えない」
少女の指先が、わずかに膝の上で動いた。
哲人は、それに気づいても、あえて声をかけなかった。
車はやがて、観光地から外れた細い道へ入る。
雑木林を抜け、古い倉庫街の一角で止まった。
「……ここ?」
哲人が首を傾げる。
「入口は別だ」
レオが車を降り、倉庫の壁に手を伸ばす。
次の瞬間、低い駆動音が響いた。
壁の一部が、静かにスライドする。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
中は、広い地下格納庫だった。
照明が順に点灯し、巨大な影が姿を現す。
「……アウローラ」
哲人は、思わず呟いた。
丸みを帯びた車体。
無骨だが、どこか愛嬌のあるフォルム。
「久しぶりだな」
マックスが、親しげに声をかける。
「今日も無茶はしないぞ。
……多分」
「“多分”を付けるな」
レオが即座に突っ込む。
少女は、アウローラをじっと見つめていた。
「……生きてるみたい」
その言葉に、マックスが嬉しそうに頷く。
「だろ? こいつ、たまに言うこと聞かないんだよ」
「それは整備の問題だ」
「細かいこと言うなよ!」
哲人は、思わず笑ってしまった。
張りつめていた空気が、少しだけ緩む。
「これからどうするんですか?」
哲人の問いに、レオは真剣な表情で答える。
「まずは移動。
今の場所は、すでに“見られている”可能性が高い」
「逃げる、ってことですか」
「避ける、だ」
レオははっきりと言った。
「戦う段階じゃない。
だが、次は確実に来る」
少女が、そっと呟く。
「……もう、始まってるんだね」
哲人は、彼女を見る。
「終わるまでは、付き合うよ」
その言葉に、少女は何も言わなかった。
ただ、小さく頷いた。
アウローラのエンジンが、低く唸る。
地下格納庫の扉が、再び閉じる。
こうして、
少年と少女は、
財団と共に、次の場所へ向かった。
それが、
本当の冒険の始まりだと、
まだ誰も口にはしなかったが。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




