消えた点
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
夜の空気は、昼間に比べてわずかに湿り気を帯びていた。
吉野ヶ里の外れ、人気のない高台に腰を下ろし、哲人は膝の上に置いたノートをぱらりとめくる。
「……やっぱり、妙なんだよな」
誰に向けた言葉でもない独り言だった。
遺跡、祠、封印、都市伝説。
それらを繋ぐ線は確かに見えているのに、決定的な一点だけが抜け落ちている。
まるで、最初から“そこには触れるな”とでも言われているかのように。
隣に座る少女は、静かに空を見上げていた。
夜空には雲が流れ、星はところどころしか見えない。
それでも彼女は、見えない何かを確かめるように、じっとその先を見つめている。
「……ねえ」
哲人が声をかけると、少女はゆっくりとこちらを向いた。
「さっきから、ずっと考えてたんだけどさ」
言葉を選びながら、哲人は続ける。
「この場所って、ただの遺跡じゃないよな。
誰かが“残した”っていうより、“置いていった”感じがする」
少女は一瞬、目を伏せた。
その仕草が、答えになっている気がして、哲人はそれ以上踏み込まなかった。
代わりに、軽く笑って肩をすくめる。
「まあ、都市伝説調査なんて、だいたいそんなもんか。
分かった気になった瞬間に、全部ひっくり返される」
少女は小さく、息を吐くように笑った。
その笑顔は穏やかだったが、どこか遠い。
まるで、ここにいながら、別の時間を同時に見ているような。
「……哲人」
彼女が、珍しく彼の名を呼んだ。
「もしさ。
全部終わったら……」
言葉が途中で止まる。
哲人は、続きを待つ。
急かさず、促さず、ただ耳を傾ける。
「……なんでもない」
そう言って、彼女は再び空を見上げた。
胸の奥に、小さな違和感が残る。
だが、それを掘り返す勇気は、今の哲人にはなかった。
代わりに、彼は立ち上がる。
「寒くなってきたな。戻ろうか」
少女は頷き、同じように立ち上がった。
二人が歩き出したその背後で、
夜風に揺れる草が、わずかに逆方向へとなびいたことに、
哲人は気づかなかった。
遠く。
目に見えない場所で、
何かが、確かに動き始めている。
それを知る者は、まだいない。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




