未記録
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
星舟ノア・レムリアが歪域へ進入してから、
正確に四十三秒後。
ブリッジの全モニターが、一斉に白くフリーズした。
「っ、外部割り込み!?」
ルーナが即座に操作を戻そうとするが、
入力が一切受け付けられない。
「ハッキングじゃない」
マリアが言う。
「これは……
“向こうから覗かれている”」
次の瞬間、
ノイズの向こうに“構造化された映像”が浮かび上がった。
幾何学的な枠線。
無機質な文字列。
感情を排した色調。
「……財団だな」
ルシアンが低く呟く。
映像の中央に、識別コードが表示される。
《LEMURIA-OBS / PHASE 3》
《非干渉原則:条件付き解除》
「フェーズ3?」
カイが眉をひそめる。
「そんな段階、聞いてないぞ」
「聞かされていないだけです」
マリアは、画面を見つめたまま答えた。
「“観測対象が自発的に核心へ近づいた場合”
――その時だけ、
財団は姿を現す」
ルーナが歯を噛みしめる。
「つまり……」
「私たちは、
観測される側から、観測に値する側へ移行した」
映像が切り替わる。
そこに映し出されたのは、
この宙域の三次元構造図。
しかし――
一点だけ、明確に“空白”がある。
「データ欠損……?」
「違う」
ルシアンが言った。
「これは、
最初から存在しないことにされた場所だ」
映像の下に、補足情報が流れる。
《該当領域:原初分岐点》
《当該地点に関する全人格・全履歴は自己封印済み》
《封印者:未記録》
ブリッジが、静まり返る。
「未記録、って……」
タケルの声が、かすれる。
「そんなの、ありかよ」
マリアは、ゆっくりと首を振った。
「あります」
そして、はっきりと言った。
「そうしないと、世界が成立しなかった」
その言葉に、
星舟が小さく軋んだ。
まるで、同意するかのように。
《警告》
《当該領域への接近は、観測者自身の記録変質を招く》
《それでも進行する場合、
観測責任は当事者に帰属する》
ルシアンは、迷わなかった。
「通信、切れるか?」
「……できます」
ルーナが答える。
「でも、切った瞬間から、
私たちは“完全に自己責任”です」
「十分だ」
ルシアンは前を見据えた。
「もともと、
そのつもりでここまで来た」
通信が、遮断される。
再び、ブリッジに静寂が戻った。
マリアは、胸の奥に
かすかな痛みと、懐かしさを感じていた。
理由は分からない。
誰の記憶かも分からない。
それでも、確かに――
「ここで、誰かが」
彼女は小さく呟いた。
「世界を、置いていった」
星舟ノア・レムリアは、
“存在しないはずの場所”へ、静かに進む。
そしてその先で、
いずれ教団もまた、
同じ歪みに気づくことになる。
だがそれは、
もう少し先の話だ。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




