回り始めた歯車
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
シャーロット財団本部。
高層ビルの最上階に位置する管制室は、夜になっても照明を落とさない。
壁一面に並ぶモニターには、地球各地の観測データが無数に映し出されていた。
地磁気、重力偏差、空間ノイズ、未分類エネルギー反応。
どれも日常的に監視している数値だ。
だが、その中の一つだけが、静かに異常を示していた。
「……これ、見て」
レオが指差したのは、日本列島の西側。
佐賀県一帯に、ごく弱い波形が浮かび上がっている。
「誤差じゃないのか?」
マックスが腕を組む。
「三回検証した。
時間差、観測機器の違い、全部クリアしてる」
レオの声は淡々としていたが、その目は鋭い。
波形は派手ではない。
むしろ、意図的に隠されているかのように、自然現象のノイズに溶け込んでいる。
「強度は?」
管制席の奥から、女の声がした。
朝宮シャーロットだった。
椅子に深く腰掛け、いつものように余裕のある姿勢だが、視線はモニターに釘付けだ。
「計測不能に近い。
でも……“質”が違う」
「質?」
「エネルギーというより、
“観測されることを拒んでる”感じだ」
一瞬、室内が静まり返る。
シャーロットは口元に指を当て、少し考え込んだあと、ふっと笑った。
「嫌な予感がするわね」
マックスが肩をすくめる。
「それ、いつものことだろ」
「ええ。でもね」
彼女は立ち上がり、モニターの前まで歩いた。
「この手の反応、
“力が目覚めた”時じゃないのよ」
指先が、佐賀の一点をなぞる。
「“思い出された”時に出るの」
レオは無言で画面を見つめていた。
その場所は、少し前に少年と少女が訪れていた地域と、偶然とは思えないほど重なっている。
「例の二人と、関係が?」
「断定はしないわ」
シャーロットは軽く首を振る。
「でも、無関係とも言えない」
管制室の空調音が、やけに大きく聞こえた。
「どうする?」
マックスが尋ねる。
「監視を強化する」
シャーロットは即答した。
「派手な調査はしない。
向こうが“気づかれた”と思った瞬間に、全部消える」
「無貌教団は?」
「きっと、あちらも気づいてる。
でも同じく、確信は持てていないはず」
彼女はモニターから視線を外し、窓の向こうの夜景を見た。
「……面白くなってきたわね」
その言葉とは裏腹に、表情はどこか真剣だった。
誰かが何かを願い、
誰かが何かを思い出し、
そして世界は、それを“なかったこと”には出来なかった。
まだ何も起きていない。
だが、確実に――歯車は回り始めている。
管制室の片隅で、警告音が一度だけ鳴り、すぐに消えた。
誰も気づかないほど、小さな音だった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




