物資回収任務
「物資回収任務ですか」
そう言い繕えば聞こえは良いが、つまりはゴミ拾いの任務だった。
「私が後方支援、アリスとシエナは車両付近の警戒および撤退ポイントの確保。そして回収任務はユーディとノエルの二人ね」
ヴァイスは戦術マップを指差しながら指示を出す。
ノエルと二人きりで行動か。別に嫌じゃないんだが、理詰めって感じの行動指針をとる子なんだよな。へんな衝突は避けたい。
「ユーディ、聞いているの?」
「は、はい!大丈夫です」
「……はぁ、まあいいわ。それじゃあ各自準備を初めて」
その号令で、俺達は一気に動き始める。こういった統率の取れ方はLF部隊だなぁと感じるところがある。
「ユーディ、それもっていくの?」
「ノエルさん、ダメですかね」
「大型ライフルは今回の任務に適してない。少し考えればわかるはず」
ちぇっと思いながら重い本体を倉庫に戻す。これさえあれば大型ドゥエラーさえ一撃と聞いたから使ってみたかったんだがな。
「そういうノエルさんの武器は?」
「ん?これ」
「これって……ナイフ一本ですか?」
コクリと首を縦に振るノエル。まじかよ。
「今回はいかに所持重量を削れるかが重要。持ち帰る荷物が多くなればなるほど部隊の評価も高まる」
「でもドゥエラーが出たときはどうするんですか」
「戦わない。逃げに徹すればどうってことはない。それに、アリスたちのところまでたどり着ければそれでいい」
なるほど。交戦は避け、任務をこなす。確かに理屈は通ってる。
「まあでも、なぁ」
「なにか問題?」
「い、いえ。私は最低限の武装はしていきますね」
脳裏によぎる嫌な予感。だいたいこういうときの予感は当たるものだ。
「構わない。でも足を引っ張ることはないようにしてほしい」
「了解」
仲良くできるか心配だ。
+++
「ノエル、報告を」
通信機越しにヴァイスの声が聞こえる。ノエルは立ち止まり、手を耳元にあて無線をオンにする。
「こちらノエル。現在異常なし。荷物量35.8%」
「了解。こちらからはドゥエラーの反応は見えないわ。けれどくれぐれも注意して」
「承知。オーバー」
無線を切り、ナイフを再び抜くノエル。その動きに無駄はない。
俺は銃の重さをスリングに預けて、事務室の机を漁っていた。
今回の目的は、レアアースを含むような電子部品のガラクタだ。ここは早々に人類が手放した土地ということもあり、置きっぱなしのスマホやらバッテリーやら、意外と豊作だった。
「……っ!」
「ノエルさん?」
「静かに!」
慌てて口を塞ぐ。しかし先程ドゥエラーの反応はないと言っていたはずだ。
となると、考えられるのは……
「おい!ここらへんはまだ手つけられてなさそうだぞ」
「くれぐれも警戒を怠るなよ」
男たちの話し声が聞こえる。
LFでもドゥエラーでもない。つまり、生身の人間だ。
治安なんてものが存在しない地区だ。俺達と同じように廃品を売って生計を立てている人間は珍しくもない。しかし、ここは危険区域だったはずだ。多少の汚染に目を瞑った命知らずたちといったところか。
ノエルに指示を仰ぐように目線を送れば、ハンドサインで指示を出してくる。
速やかにその場を離れ撤退。
人間相手でも非交戦は徹底している。
まあそもそも、LFは対人戦ができないように設計されている。思考モジュールが暴走しても人間に危害を加えないようにリミッターが働くようになっているからだ。
だからLFは人間に勝てない。
勝てないから逃げなければいけなかった。
「おっと、それ以上動くときれいな頭が吹き飛ぶことになるぜ?」
どうやら、外の二人以外にもまだ仲間がいたらしい。
「わかりました。投降します」
俺とノエルは手足を拘束され、大通りの真ん中に転がされることとなった。
+++
「兄貴、どうします?」
「なに、こんなところに派遣されるようなLFだ。2体くらいMIAになったって問題ねぇだろ」
「バラすか?それとも好事家に丸ごと買い取ってもらってもいい」
嫌な話である。まあLFなんて機械の塊、バラして売ってもしばらく食いつなぐことができるだろう。しかも逃さなければ抵抗という抵抗をしてこない。スカベンジャーたちにとってはボーナスもいいところだ。
会話の様子からして男たちは3人組で、他には周りに誰もいないようだ。
「なんだ、反抗的な目だなぁ」
ノエルが胸ぐらを掴んで持ち上げられる。ノエルに反抗する素振りはないが、その呆れたかのような表情が気に食わなかったのだろう。
「LFはもっと使い道があればいいんだけどなっ!」
音を立てて破かれる衣服。あらわになったのは、鉄の塊にしては少女的なその体だ。
「ほお、人工皮膚ってやつか。意外とさわり心地はいいじゃねえか」
無遠慮にノエルを触る男。
突如俺の視界を文字が埋め尽くす。
人への加害行動は禁止されています
ただちに思考を切り替えてください
赤く染まったエラーコードの中で、俺は考える。
唯一、LFが人を害する方法がある。それは、人間の指揮官による強制指揮だ。
今の俺は電脳と人の脳が組み合わさった存在ではなく、電脳の上に人の脳をのっけているような存在だ。つまりは、個人の中で意思決定の上下関係があるということだ。
俺は落ち着いて自分に言い聞かせる。
LFユーディの対人リミッターを解除する。
カチリと、いままでから回っていた歯車が噛み合う音がした。
+++
「ノエル!ユーディ!」
退却地点に着いた瞬間、ヴァイスが走って出迎えてくれる。ちょっと苦しいくらいだ。
「心配した。途中で定時連絡が途絶えたのはなぜ?」
「えーっと、まあそれは」
俺たちは嘘を言うことにしていた。
「付近に人間の反応があったから、しばらく話せなかった」
「接敵はなかったのね」
「ああ、なかった」
ノエルがこの嘘に協力的で助かった。
人を独断で加害できるLFなんてものは存在しなかった。いいね?
「それじゃあ帰りましょ」
トラックに乗り込み、揺れに体を預けて目を瞑る。
だから俺は気づかなかった。ノエルがこっちを凝視していることに。




