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少女型兵器が戦う世界でTSする話  作者: 畑渚


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2/10

配属先

 メンテナンスセンターを抜けてメインホールにでた俺を迎えたのは、一人の女性だった。彼女は確か軍団長の秘書だったはずだ。


「初めまして、ユーディ。早速ですがこちらへ」


 自己紹介はしてくれないようである。

 一言も喋らぬ彼女に連れられるまま、エレベーターに乗り込む。


「アザレア博士よりあなたは新世代LFの実験機とお聞きしています」


「あ?ええ、まぁ」


「戦局情報は正しくインプットされていますか?」


「問題ない」


 思い出そうとすれば、勝手に角膜に詳細情報が表示される。うわぁこれめっちゃ便利やん人間の時も欲しかった。


「自己認知プログラムに異常は?」


「それも問題ない。博士からのお墨付きだ」


「わかりました。ではご案内します」


 エレベーターが目的の階へと到着し、扉が開く。その正面に構える重厚な扉は、軍団長の執務室だ。


「私はここまでです」


「あぁ、ありがとう」


 扉の前で立ち止まり道を譲ってくれた秘書ちゃんに感謝の意を述べ、俺は扉をノックする。


「……入れ」


「失礼します」


 扉を開けるとそこには、両肘を机に乗せ手を組み、その手で口元を隠す一人の男が座っていた。


 俺こいつ昔から苦手なんだよなぁ


 しかしそうも言ってられない。俺は丁寧語というものを思い出しつつ、軍団長に話しかける。


「軍団長ほどのお方が私にどのような用でしょうか」


「なに、新型ともなれば姿を拝んでみたくもなる」


 その狡猾さと貪欲さに満ちた瞳がこちらを向く。俺は思わず右に目を逸らした。


「……」


「……?」


「……」


 しばしの沈黙、先に口を開いたのは軍団長だった。


「配属先を教えねばな」


 そう言ってこちら側に1枚の書類を滑らせる。機械的反射神経でそれを受け止めた俺は、その部隊名に思わず目を見開く。


「ドレッド部隊、ですか……」


「なんだ、不満か?」


「いえ、そういうわけではないのですが。確か前線部隊では?博士からは後方から始めさせるとお聞きしていたのですが」


「……なに、簡単な話だ」


 軍団長は立ち上がり、窓から外の風景を眺める。


「その部隊は今日付けで後方勤務になる」


「なっ……。優秀なLFたちが揃った部隊だと聞いていましたが」


「彼女らは間違いなく優秀だったさ」


 過去形を強調して軍団長は言葉を続ける。


「数週間前の作戦で指揮官を亡くしてね。それ以降戦績が落ち続けている。代わりの指揮官も打診したのだが受け入れてもらえなくてね」


 何をしているんだアイツらは。LFは指揮官がいなければその性能を十分に発揮できない。そういうリミッターがかかっているのだ。指揮官がいないLF部隊は、かごの中の鳥、陸の上のカッパ。つまりはただのお手伝いロボレベルだ。


 いやまぁ、俺のせいだろうな。


 少し反省もしてる。彼女らにとって最優先事項である指揮官を目の前で失ったのだ。機械だからまだ動けているが、人間だとPTSDものである。


「そんな部隊に私がですか」


「なに、ちょうどいいではないか。皆とともに一から業務を覚えていける」


「はぁ、まぁわかりました」


「連絡事項は以上だ。退室して構わない」


「はっ!失礼しました」


 俺は礼をし、扉を開ける。


「……感情的すぎる」


 高性能マイク搭載の俺の耳は、去り際に軍団長が小声で呟いたそれを聞き逃さなかった。


 確かに少しアンドロイドっぽくなかったか。


 俺は機械俺は機械俺は機械


 そう言い聞かせながら、宿舎へと向かうのであった。



+++



 軍団長の俺の一日は早い。

 早朝に目を覚まし、目覚ましがてら冷水で顔を洗う。朝のトレーニングを済ませシャワーで汗を流す。スキンケアだって怠らない。たんぱく質豊富な朝食を食べて朝刊に目を通す。政治なんて興味なかったが、軍での地位が上がるにつれていかんせん無視できなくなってきた。


 全てのルーティンを終えた俺は制服に着替え、出勤する。


「軍団長、今朝の報告書です」


「ああ、ありがとう」


 秘書は涙の跡を見せながら書類を渡して下がっていった。一見クールそうな彼女が涙を流す案件ということは、また誰かが死んだか。


 覚悟を決め報告書に目をやると、そこには良いニュースが書かれていた。絶望的だった戦線からの奇跡の脱出劇だ。多少損害は出たものの、状況を鑑みれば最高の結果と言える。


 俺はパラリと資料をめくった。そこに書かれていた名前の羅列は、今回の任務のいわゆる損害側、犠牲となった者たちのリストだった。


 そこに、俺の戦友の名前があった。


 やつは気さくだが志の高いいい奴で、同じ時期に入隊した同期でもあった。しかしなんの因果か俺は出世し、やつは現場にこだわった。その結果俺は人材枯渇の一押しもあり軍団長にまで上りつめ、やつは現場指揮官となった。


 戦果報告書を詳細に読み込めば、奴がトラックで敵へと向かっていた最期が綴られていた。


 まったくバカなやつだ。格好良く死のうとしやがって。


 俺は書類にサインをし、犠牲となった者たちの二階級特進資料にサインを付けた。




 思えば不思議な話だった。

 戦況が落ち着いた頃、下層部からアーティファクトの回収任務を打診された。アーティファクトの希少性を考えれば当然のことであったがために、あまり考えずに許可のサインをした。

 しかしその回収部隊には、天才と名高いアザレア博士と、指揮官を失ったドレッド部隊がアサインされていた。


 よく考えれば違和感を感じる話だ。アザレア博士は確かに地位の高い人物だが、LF研究が専門だ。それにドレッド部隊は感情モジュールへの影響を考えれば今動かすべきではない。


 しかし当時の俺は、そのことに気が付かなかった。


 数週間後、博士から直接連絡があった。


 とある新型のLFをテストしたい


 わからない話でもなかった。俺は特に悩むこともなく許可した。

 そして配属当日、それを執務室で迎えた。


 コンコン…コン


 はじめはその思い出したかのような3回ノックに既視感を覚えた。


「失礼します」


 しかし入室してきたのは、年端も行かぬ少女の形をしたアンドロイドだった。

 長い銀髪を頭の両端で結び、その黄金色の目は簡易情報媒体として文字の羅列が走っている。LF特有の戦闘服に身を包み、関節からは金属が垣間見える。

 容姿はどこにでもいそうなLFの一体だった。


 ちらりと目を合わせると、サッと右方向へ目を逸らした。


 ああ、これはいつもの

 俺の中にさらなる既視感が積み重なる。


 言葉の節々、動作。そのすべてが、人間らしすぎた。


 そこで俺の脳内に一筋の道が浮かび上がる。

 もし記憶ごと脳をLFに移植する技術があったとして、あのバカとマッドサイエンティストなら何をやらかす?


 そんな邪念を振り払いながら規定の話を終えた俺は、彼女を送り出す。


「……感情的すぎる」


 思わず口から漏れたそれは、もう彼女をただのLFとして見れないという、敗北宣言に近い何かだった。



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