少女型兵器が戦う世界でTSする話
ある日、それは突然、人類の生活圏へと侵攻を始めた。
人類はそれをケイブ・ドゥエラー、通称ドゥエラーと名付け、生存競争を開始した。
だが対ドゥエラー戦はことごとく敗北。人類は生存圏の半数を失った。
しかし、負け続きだった人類に一筋の希望が垣間見える。
それはリリス・フレーム、通称LFと呼ばれる少女型アンドロイドだ。
人類はLFを武装化することで人的資源の枯渇を抑制。死をもおそれぬ鉄の少女たちは、いずれ各地で戦果を上げ始める。
そんな彼女らの核となるのは、人間の指揮官だった。人間を指揮系統システムに組み込むことで、より最適な作戦遂行が可能という論文が発表されたのだ。機械の脳と人間の脳が議論することによって生み出される相乗効果によって、柔軟かつ鋭敏な行動を導き出すことができるのだ。
これは、そんな世界で一人の指揮官が死ぬお話。
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「ヴァイス、状況を報告しろ!」
「ポイントアルファは崩壊、ブラボーはまだ持ちこたえていますが、時間の問題かと!」
「クソ、想定よりも敵が多すぎる」
俺は思わず机を叩く。手汗で地図が滲むが、気にしている余裕などなかった。
俺たちドレッド部隊が駆り出された戦場は、すでに到着時には撤退戦を開始していた負け戦の場だった。そんな状況下で部隊に与えられた使命は、『人間の兵士たちが撤退するまでの時間稼ぎ』だった。まるで捨て駒のような作戦も仕方ない。なぜなら俺達の部隊は、俺を除く全員がLFで構成された無人部隊なのだから。
「ブラボーはまだ持ちこたえてくれ!チャーリー、デルタのポイントは放棄、撤退の道筋は一本で十分だ!」
「ですが指揮官、それですとあなたの撤退する時間が!」
「これは命令だ!前線の兵士を一人でも多く撤退させるんだ!」
状況は絶望的だった。多方面から襲い来るいまだかつてないほどの量の敵に、人類は退くことすらままならない。俺達の部隊だけでは、もってあと一時間といったところか。
「仕方ない、アレを使うしかないか」
俺は指揮所のテントを出てある場所へと向かう。それは人類の切り札でもあり、最終手段だった。
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「ヴァイス、指揮官が移動を開始している」
「ありがとうアリス。ようやく退く気になったのね」
ヴァイスはほっと胸を撫で下ろす。自分たちは替えが聞く機械だが、指揮官はかけがえのないヒトだ。
「それが……、移動しているのは撤退線ではなくアレの場所です」
「なっ!自分を犠牲にするというの!?」
だがあり得ない話ではなかった。軍に忠実で義勇心に溢れたお方だ。撤退する人間の数と自分一人の命を天秤にかけ、何を犠牲に取捨選択した結果だろう。
「了解。指揮官、私たちはあなたと共に……」
部隊の皆とアイコンタクトをとる。皆覚悟が決まった瞳で返事を返す。
ここには、いずれ英雄となるであろう指揮官に死の果てまで付き合う覚悟を持ったLFしかいなかった。
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通信機にコール音がなると、俺は迷わずに応答する。
「指揮官、ブラボーポイントは撤退を完了。あと多少時間を稼げればあなたの撤退も可能かもしれないわ」
「ありがとうヴァイス。状況はよくわかった」
撤退戦としてはまずまずの結果だ。ほとんどの兵士が撤退を完了させ、進捗率は八割といったところか。
だが、俺達の状況は絶望的だ。すぐ目の前まで敵の群れが迫っており、このまま後ろ向きに全力疾走したところで波に呑まれるのがオチだった。
「だから指揮官、早く撤退の準備をーー」
「俺は撤退しない。アレをつかって作戦を完遂させる」
俺は大型トラックに乗り込み、エンジンをかける。旧時代的な振動が心地よく俺の胸を揺らす。
「やはり……わかったわ。私たちも最後まで指揮官を援護する」
ヴァイスは俺がしようとしていることを理解しているようだった。
それはいわば自殺行為。生きて帰れる可能性はゼロの作戦だった。
あるアーティファクトがある。それは発見時は謎のアーティファクトであったが、研究が進んだ結果、電気を引き換えにドゥエラーを数分無力化する効果を持っていることが判明した。
このトラックにはそのアーティファクトと、そのトリガー装置、そして莫大な電力を賄うバッテリーが搭載されている。
このトラックで敵の群れにつっこみ、中心でアーティファクトを起動させる。
そうすれば安全に皆が撤退できる時間ができるという算段だ。
「指揮官、援護の指示をください」
通信機の向こうから急かす声が聞こえる。俺は一度咳払いをし、言い放つ。
「全機、全力で撤退しろ」
「……は?」
あまり聞くことのないヴァイスの腑抜けた声に思わず笑いそうになる。
「言った通りだ。撤退しろ、ヴァイス」
「何を指揮官!そんな命令聞けるはずがありません!」
「いいや、これは強制命令だ。従え」
指揮官に与えられた強制命令権は、LFに有無を言わさずなんでも言う事を聞かせられる絶対的なシステムだ。
「いやだ!指揮官!私も残って戦わせてくれ!一人で逝くだなんてーー」
プツリと俺は通信機の電源を切った。戦術マップで部隊が撤退し始めたのを確認し、俺はアクセルを思い切り踏み込む。ゔぉんと唸るエンジンによりトラックはどんどんと加速していく。
「さあ覚悟しやがれバケモノども!これが俺の生き様だ!」
目の前の群れに怯むこと無く、俺はアーティファクトのトリガーに手をかける。
群れはまるで津波のように襲い来る。敵にぶつかるにつれて、トラックの外部装甲がベリベリと剥がれ落ち、へこみ、衝撃が振動が、俺を止めようと襲いかかる。
「くっ、ここらが限界か」
エアバッグで視界がなくなった俺は、感覚だけでトリガーを引く。
訪れたのは数分の静寂。いままでの戦闘音が嘘のように静まり返った世界だ。
しかし、そんなものはものの数分でなくなった。
俺が最後に見たのは、安全ラインまで下がった部隊の位置情報だった。
その日、人類は小さな光を一つ失った。
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まるで脳を直接握られたかのような頭痛。焼けるような喉の痛み、寒さと暑さを交互に感じ、キーンという耳鳴りが極大まで高まる。
「っ!はぁ、はぁ」
飛び起きるように目を覚ました俺が見たのは、複数の電球で構成された無影灯だった。辺りを軽く見回せば、そこが手術室であることがわかった。
しかし違和感があった。まるでそこは医療施設ではなく機械工場かのように、医療用具の代わりに工具が散乱していたのだった。
俺は……生きてる?いや、そんなわけが
記憶は曖昧だが、確実に死んだという実感が残っていた。
俺は腕に力を入れて体を起こす。
「ここは一体……ん?」
女性らしい高く澄んだ声が手術室に響く。そのタイミングからして、自分が発したものに間違いはなかった。
「……まさかっ!」
急いで体を確認する。しかしそこにあったのは、見慣れた鍛え上げた軍人の肉体ではなく、まるで少女のような、それでいて機械的な素体だった。
「嘘……だろ?」
「いや、嘘じゃないさ」
突然聞こえてくる館内放送にびっくりし、体が反射的に動いた。
その結果、腕にあたった近くのワゴンがひしゃげた。
「おいおい、すぐに暴力行為かい?これだから君は」
「ま、まさかお前、アザレアか!?」
「そのとおりだよ」
アザレア博士、その名を知らぬ人はいない。LF開発の第一人者であり、指揮プロトコル理論の提唱者でもある。いわば人類の救世主だった。
そんなアザレアだが、裏の顔は研究のためなら非人道的な行為も辞さないマッドサイエンティストでもあった。腐れ縁である俺はそんな彼女の研究内容の一部を教えてもらっていた。
「人と機械の融合……」
「ご明答。そのとおりさ。私は成功した」
「確かに俺はそのイカれた研究の承諾書にした。でも俺が死んだのは戦地のど真ん中だぞ?」
「まったく、本当にそうだよ。おかげで回収に手間取ったんだから。原型をとどめていない君を探し出すのは骨が折れたよ」
「原型を……うっ」
死ぬ直前の感覚を思い出し、思わず嗚咽が漏れる。
「ふむ、本来は嗚咽なんて生体機能はないはずなのだがね。人間の脳を使った影響ということか。一考の余地あり……と」
「はぁはぁ。それで、俺を生き返らせてどういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、研究さ。今や君は唯一の成功例なんだから、そのデータが私はほしいだけだよ」
「な!それだけかよ。じゃあ俺は放免ってことか?」
「さすがに身分のない君を放っては置かないよ。新たな身分証は机の上においてある」
俺はそっと立ち上がり、机へと向かう。身長も体格もいままでとは全く違うというのに、まるで体の動かし方をインプットされたかのように、動きに問題はなかった。
「新人LF、ユーディ。これが新たな名前?」
「LFである以上軍属に戻ってもらう。まあ最初は前線に出ないようには取り計らっておくさ」
「わかった。感謝する」
「素直でよろしい。それじゃあ、また次のメンテナンスの際に会おう」
俺は身分証を持って部屋の扉に手をかける。
「ああ、最後にもう一ついいかい?」
「なんだ?」
「これは極秘の研究だ。くれぐれも君が指揮官をしていたことを気づかれないようにね」
「気づかれた場合どうなる?」
「まあ私は懲戒をくらうかもしれないね。君はきっと廃棄処分か檻の中だ。そしてなにより……」
「なにより?なんだ」
「君の指揮下で働いていたLFがそれを知ったとき、彼女らの感情モジュールにどんな影響を及ぼすかわからない。最悪の場合、電脳ごとブレイクして取り返しのつかないことになるかもしれない」
その言葉に俺は存在しないつばを飲み込む。
「わかった。俺はこれからユーディだ」
「それじゃあ健闘を祈るよ」
ぶつりと放送が切れる音を背に、俺は扉を開く。
新たな人生の幕開けだった。
毎日18時更新、10話完結です




