発表会の警備計画の確認 6
「……えーっと、配置だけで二十三人。……かなりの警備ですね」
「それは当然です。主催は弊社ですから他社に負担や迷惑をかけるわけにはまいりません」
「…………」
「どうかなさいましたか? ルーチェ嬢?」
図面を見続けているルーチェに声をかけてきたヴォルティチ。ルーチェは視線を動かさずに、図面に向かって指を動かす。
「通路と通路の間にあるこの線は何?」
ルーチェは腕を伸ばして図面の一か所を指し示す。指の先にはステージ入口の光点と客席の側面入口の光点の間にあった一本の線。ドアがあることを示すマークも書かれていた。ヴォルティチが視線を指された方に向けて口を開いた。
「そちらは壁ですね。正確にはドアもありますので、ステージ側と客席側を隔てている壁ということになります。今回そちらと通路反対側のドアは開けることはないと考えています。警備課もそちらのドアは使わないことになっています。そうですね?」
ヴォルティチが男に向かって尋ねていた。その視線を受け取った男は、ただ黙して首を縦に振った。その答えに満足したのか、笑顔でルーチェの方へと向き直ってきた。
「ということになっています」
「……しかし、そうなると我々が移動する時はどのように?」
尋ねながら、ルーチェは伸ばしていた腕を下ろし、膝の上に手を置いて背筋を伸ばす。そのタイミング見計らったかのように、ヴォルティチが続けた。
「その際にはコビナレホールにいる警備員が開けることになります。そちらの警備員とは話をしてあり、ホールの警備員一名に対し、こちらの警備課が二名と一緒に行動することになっています。ただ、先ほどもお伝えしたようにそちらのドアを使う予定はないので、移動はないかと思います」
「…………」
「ルーチェ嬢にお願いしたいのは、発表会開始以降、警備が手薄になったところに別の警備を配置するか、直接移動して対応をしていただきたいのです。もちろんそれは客席側、になりますが」
ルーチェが何も話すことをしなかったためか、ヴォルティチが矢継ぎ早に話をしてきた。ヴォルティチが足を組み替えた。
ルーチェはじっと黙って、図面を通してその向こうにいるヴォルティチを見ている。ヴォルティチもまた、じっとルーチェを見ていた。橙色のついたレンズを通して見えるその目は柔らかな視線で、ヴォルティチの後ろにいる女から向けられていた鋭い視線とは異なっていた。
今まで伸ばしていた背を前へと倒し、両ひざに肘を置いてバランスをとるルーチェ。前かがみの姿勢になりながら、口を開く。
「その方法だと……いくつか問題がある」
静かな言葉だったが、それはヴォルティチ達にも届いたようで、ヴォルティチの後ろに控える女がわずかに前かがみになった。それに感づいたのか、ヴォルティチは左手をあげて、後ろの女の行動を制した。女が姿勢を元に戻した。
ヴォルティチの一度だけ目を閉じて再び開いた。開かれた瞬間、視線は鋭さを増していたが、すぐにそれも柔らかなものになった。
「……ルーチェ嬢、差し支えなければ、あなたのご意見をお伺いしても?」




