発表会の警備計画の確認 3
小さなため息とともにヴォルティチが告げ、同時に立ち上がった。隣にいた男に目配せをして、ヴォルティチは部屋の隅の方へと移動した。アナリズもそれを見て、ヴォルティチとは対角の部屋の隅へと動いた。男がソファとテーブルをヴォルティチとアナリズがいないところに動かし、部屋にスペースを作った。男はそのままその場にとどまった。
準備ができたということなのか、女の両手が上がり構えられた。左手が前、右手が後ろ。足の位置も同じようになっていた。男と同じく、金属の接触する音が聞こえてくる。
ルーチェの方は、その場でわずかに膝を曲げ、重心を後ろに下げる。両手は顔の横に構える。
静寂とともに、間があく。ルーチェと女の視線がぶつかりあっていた。
ルーチェが息を吸い、吐き出した瞬間だった。
女が構えのままに踏み込んできた。左手の拳が突き出されてきた。明らかにアルテファットの右腕を狙った動き。ルーチェはそれを真正面から受け止める。右手の甲で左手の内側を弾き、脇をひらかせる。そのまま、右手でがら空きになった上半身に拳を叩きつけようと構えるが、瞬間的に左腕を地面に向ける。女の右足が伸びてきていて、ルーチェはそれを左腕で受け止める。女は左手が弾かれた反動を利用して、体のひねりを加えて右足で蹴ってきた。蹴られた衝撃でわずかに体の軸がずらされる。
ルーチェはその衝撃に身を任せ、一歩ぶん、右へと体の位置をずらす。その位置は奇しくも女の体を真正面にとらえることになる。構えた右腕を伸ばし、攻撃に転じる。明らかに服が膨らんでいる胴体ではなく、左肩を狙う。
ルーチェの右の拳が女の左肩を殴りつける。拳からは体を叩いた音はなく、無機質な細かなものに触れた音がする。
「ぐっ」
殴られた女は蹴り上げていた右足を何とか下ろし、転ぶのを防いだ。しかし、後ろに下がったことでルーチェとの距離が空いた。構えも崩れてしまっていた。その隙を見逃すことをルーチェはしない。右の拳を引き戻しながら、さらに踏み込んでいく。踏み込んだ勢いで、次は下から左手の掌底を女のがら空きの腹部に押し出していく。
ルーチェの動きが見えていたのか、あるいは、意図が読めたのか、女は右手を下ろしてルーチェの左手の掌底を止めようとした。女の右手が届くよりも早く、ルーチェは左手を押し出す。接触の瞬間、左手の掌底の指を下から上へと捻るように動かす。女が着ているワイシャツの下の服が小さくジャラと音を立てた。無機質なものの向こう側のものに衝撃を与えていた。
今度は踏ん張りがきかず、女が吹き飛んでいった。盛大に壁まで飛んだ女は、大の字になって壁に叩きつけられた。直後、こらえきれずに口からよだれを吐き出していた。
「ガハッ」
ズルリという音とともに、床にへたり込んだ女。動けないまま数回空気を求めて咳込んでいた。壁を頼りにしながら、ゆっくりと起き上がった。
ルーチェは体を起こしてから視線をわずかに女からヴォルティチへと移す。部屋の隅で二人の戦いを見ていたヴォルティチは特に口を開く様子もなかった。じっと二人の決着が着くのを待っていた。
「どこをッ、見ているッ!」




