発表会の警備計画の確認 2
「ルーチェ嬢。何かございましたか? 穏やかとはとても思えない視線を向けていらっしゃいますが?」
「……失礼しました。ヴォルティチさん。警備課のお二人に、少々お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
ルーチェは言葉を選びながら、慎重に話す。それを聞いていたヴォルティチは、一瞬考えるような表情をするが、すぐににこやかに頷いた。
「ありがとうございます。お二人に質問なのですが、何か相手を制圧するような物をお持ちなのでしょうか?」
ルーチェの質問にヴォルティチの後ろに控えていた二人が互いに目くばせをしあっていた。それから、男の方がヴォルティチに何かを耳打ちしていた。ルーチェはそれをじっと見ている。アナリズは何が起こっているのかわかっていないのか、男とルーチェを交互に見ていた。
「構いません。どのみちお見せする必要はあるでしょうから」
ヴォルティチが男に許可を出した。男が一度小さく頭を下げてから、一歩下がった。それからルーチェへと視線を向けてきた。そのまま、男は着ていたジャケットの後ろに手をやった。ルーチェと同じような動きを見せた。カチリと小さな金属音がして、何かを取り出してきた。その手の中には一本の棒があった。手首には落下防止のストラップの輪が通されていた。黒い色をしていること以外、装飾も何もないただの金属の棒。持ち手の近くにボタンのようなものが見えた。
「失礼します」
男は一歩横に動いて、ヴォルティチから距離を取り、持っていた棒を縦に振った。
カシャンという音とともに、金属の棒が元の三倍の長さにまで伸びた。もう一度、ヴォルティチから離れた場所で振る。ヒュンという風切り音が響いた。
「我々が携帯しているのはこの警棒くらいだ。今回はこれに加えて防具としてシャツの下に特殊な繊維の服を着ている」
空いている方の手でワイシャツの襟をつまみながら男が話してきた。
「……それで体が一回りほど大きく見えたわけですね」
「その通りだ」
話し終わると持っていた警棒を元の長さに戻して、ジャケットの後ろに片付けた。その動きは慣れたもので、流れるようにして元の状態に戻っていた。
入れ違うようにして今度は女の方がヴォルティチへと近づき、何かを話していた。男と同じように小さく頭を下げた。今度はヴォルティチは何も発せず、女の方が口を開いた。
「失礼だが、あなたの実力を知りたい。聞けばほんの少し前に意識を取り戻して、ここに来たと聞いた。そのような状態で我々と同じように護衛ができるのか?」
「る、ルーチェさん?」
ルーチェの隣にいるアナリズが、心配そうに顔をのぞき込んできた。ルーチェはそれを手で制してから答える。
「アナリズ、大丈夫。……確かに先ほど起きたばかりというのは事実です。それでも護衛はできると思います」
「る、ルーチェさん! そんな言い方!」
ルーチェはアナリズの方を一切見ず、じっと女の方を見ている。女の目にはっきりと火がともったのが見える。
一歩、女が前に出てきた。開いていた手が握りこまれた。
「……お二人とも、止めるつもりはないようですね……。仕方ありませんね、この後のことを考えての行動をお願いします」




