押し付けられる 3
「ルーチェさんがアナリズさんを鍛えてください。そうですね、こちらなりの言葉でいえばつかえるようにしてくださいといえばいいでしょうか? それで、ルーチェさん。どうですか?」
話し終えたポラーレの目が一瞬、鋭くなった。はっきりとルーチェのことを視線で射抜いてた。しかし、それはすぐに柔和な笑みに戻っていた。鋭さはなりをひそめ、ルーチェにとってのいつものポラーレになった。
「……素性を探り、つかえるようにしろ、と」
一言だけ、ルーチェは告げる。ポラーレの表情の変化はいつも通りだった。そこに感情の変化は見て取れない。
「簡単にまとめるとそうなりますね。お願いできませんか?」
柔和な笑みを崩さずに、ポラーレがルーチェにお願いをしてきた。その言葉にはわずかに力がのり、念押しのようにもなっていた。
「確認するが、つかえるように、というのはいったいどうなったらそう判断をする?」
あえて答えず質問をしながら、流れるように腕を組むルーチェ。
ふむ、と一言前置きをしながら、ポラーレがルーチェへと答えた。
「難しい質問ですね。つかえる、といっても色々あると思いますが……ひとまずは自分の身が自分で守れるようになる、というあたりでどうでしょうか?」
「それだったら、できてる」
ルーチェは端的に答える。それを聞いたポラーレはまるでわかっていないといわんばかりに大仰に首を横に振った。ため息までつけていた。ルーチェはその動きを腕を組んだままじっと見ている。ほんの少しだけ右手に力が入るが、すぐにそれも外していく。
「ルーチェさん。あなたのいう、できてる、はあのガンビーザと戦っていた時のことを基準にされていますよね? しかし、実際はどうなのでしょうか? 一口に身を守るといっても、それこそ色々な状況が考えられると思われます。こちら側でいうところの、自分の身が自分で守れるように、というのは、一言でいえばなんとしても生きて帰ってくる、ということになるのでしょうか」
ポラーレが自分の口ひげを何度も撫でながら答えてきた。視線もルーチェとはあっておらず、下を見ていた。ルーチェがその姿を見ていると、ポラーレはそれに気づいたのか視線を元に戻してきた。
「どう思いますか? ルーチェさん?」
「……そういう意味では、確かに身を守ることはできるのか、わからない」
素直にルーチェは答える。そして、腕の組み方を変える。両肘を下から支えるようにする。それから、視線を天井へと向ける。
「……どのみち断ることなんてできない……それにマスターにも預かると返事した」
「ありがとうございます。ルーチェさん」
ポラーレは言うと、手を二回叩いた。ルーチェはその音に引き寄せらえるようにして、画面に視線を戻す。
「では、早速なんですが、アナリズさんをこちらに呼んでもらえますか? ここから先、お話しすることはお二人に聞いていただきたいので」
わかった、と答え、ルーチェは通信端末を手に持ったまま、自分の部屋から出る。
リビングには、ううっ、といいながらアナリズの作ったオムライスらしきものを食べるオリチェと、それを見ているアナリズがいた。そのアナリズは、お水です、といいながら、オリチェにコップを渡していた。
「アナリズ、ちょっといい?」
「あっ、はい」
返事をしながら、アナリズがルーチェの方を見た。
「こっちに。あなたと話したいって人がいる」
アナリズが、わかりました、と答え、ルーチェへと近づいてきた。その表情には明らかに緊張したものが張り付いていた。動き方も違和感があり、よく見れば同じ手と足が動いていた。そんな歩き方をしていたので、何度か転びそうになるが転ばずに近づいてきた。
「あっ、えっーと、ルーチェさん?」




