押し付けられる 2
「報復の的を一か所に集める、ということ?」
ルーチェの言葉にポラーレは画面越しに頷いた。メガネのレンズが光を反射し、一瞬ポラーレの視線が見えなくなる。頭をあげると同時にそれもなくなった。ポラーレが話し始めた。
「その通りです。ルーチェさんなら気づいていただけると思っていました。もちろん、これはキャンビア側の意図が大きいです。それともう一つあります。キャンビアにも同意してもらっている内容ですが……」
ポラーレが言葉を切った。じっとルーチェの顔を見ていた。ほんの数秒程度。
ルーチェは肩をすくめつつ、首を縦に振って、話を促す。
ポラーレが続けた。
「アナリズさん。彼の素性がわからないのです。包帯も自分で交換しているようで、中を見ることはできません。端的に言えば、謎の人物、です。ですので、こちらとキャンビア、二人が知っていて、協力体制がとれるルーチェさんの近くにいてもらうのが一番という結論に至りました」
「……要は、お守り、ってこと?」
一言だけで返答をするルーチェ。差し出していた手を引き戻しながら、いつの間にかその手は握りこぶしを作っていた。力が入りそうなところだったが、指を伸ばしてなんとかそれを止める。
「身も蓋もない言い方ですが、確かにそうとも言えるかもしれません」
「……あのね、正直、足手まといなんだけど?」
短く息を吐きだし、ルーチェはポラーレに告げる。
「なるほど……足手まとい、ですか。本当にそうでしょうか?」
ポラーレのメガネが再び、キラリと光った。レンズの向こうの視線も鋭いものになっていた。合わせてか、あるいは対抗するためか、ルーチェの視線もまた鋭くなる。
「どういう意味? それはあの赤い髪の攻撃を避けきったから、とでもいいたいの?」
「お分かりではないですか。つまりそういうことです。あの攻撃を避けきることができたのです。ルーチェさん、あなたですら避けきることができなかったあの攻撃を、です」
「ポラーレ……ケンカ売ってる?」
「とんでもない。事実をお伝えしただけです」
両手と首を横に振りながらポラーレが答えてきた。ギリッという音がルーチェの耳に届く。口の奥で痛みが走る。
「それをケンカ売ってるっていうのよ!」
通信端末に向かって怒鳴り声を上げるルーチェ。衝動的に端末を投げつけようとするが、何とかそれは踏みとどまる。振り上げた手をゆっくりと下げ、通信端末の画面へと再び視線を戻す。
「……落ち着かれましたか? ルーチェさん。こちらも不用意な発言をしてしまったことを謝罪いたします」
「……いい。事実だ。だけど……」
一度目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。ルーチェは何度か深呼吸を繰り返す。あらぶっていた息が静まっていく。目をゆっくりと開ける。通信端末を真正面にとらえる。視線の先にはポラーレがいた。
「足手まといであることに変わりはない」
「……なるほど。避けることしかできないということなのであれば、ルーチェさんの言われるようにそうなのかもしれません。……では、こういうのはどうでしょうか?」
ポラーレが画面越しに指を一本立てた。
「何?」
ポラーレの動作に、ルーチェが質問をする。とポラーレはそっと口を開いた。言葉よりも先に漏れた吐息が聞こえる。




