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同居人たち 15

 一つ、両手を鳴らしたマスターが話の区切りをつけつつ、アナリズに尋ねた。アナリズはキッチンに置かれた皿を見ながら答えた。マスターとは目を合わせずに、顔には明らかな作り笑いが張り付いていた。


「えーっと……料理、です」


 つっかえながら話したアナリズ。その手はさっきルーチェを指さしたのとは違い、今度は手のひらで示した。


「んーアナリズちゃん。食材はぁ粗末にしちゃいけないってぇ、きいたことなぁい?」


「ぼ、僕は無駄にはしてませんよ。食べてもらえればわかります!」


「…………」


 オリチェの背中を軽く数回叩いたマスター。それが合図となったのか、オリチェはマスターから離れて、近くにあったイスに座った。あくまでアナリズとは距離を空けたいらしく、ルーチェを挟んで反対側に座った。あげられた顔は、涙と鼻水で濡れていた。オリチェは紙ナプキンでそれらを拭っていた。


 マスターはオリチェが座るのを確認してから、料理の皿の前に立った。その皿とスプーンを持って、テーブルへと移動をしたマスター。空いていたイスは一か所だけ。オリチェの隣でアナリズの向かい側。ルーチェとは斜めの位置になった。


 料理からは湯気が立っていた。ルーチェは少しだけイスを離して、マスターが料理と言われたものに手を付けるのを見ている。マスターは自分が言ったカラーリングのものをスプーンですくって、口の中に入れた。


「…………っ」


「えーっと、ど、どうですか?」


 声がわずかに震えていたアナリズ。


 ごくり、と飲み下した音がルーチェの耳に届く。


「頭がぁ、おかしくぅ、なりそうぉ……」


 消え去りそうな声が部屋の中に現れた。マスターは眉間にしわをよせながら、口の中を小さく動かしていた。ためらいがちにもう一度だけ、スプーンですくって口に運んでいた。二度目は明確に小首をかしげながら、それでも噛んで、飲み下していた。


「やっぱりぃ、頭がぁ、変になるぅ」


 マスターはやはり同じことを言い続けていた。


「マスター、どういう感想?」


「……ルーチェちゃぁんも食べてみればぁ、わかるわよぉ。すっごい変な感覚にぃなるからぁ……って、無理よねぇ」


「…………」


 ルーチェに声をかけたマスターだったが、すぐに諦めた。代わりにマスターはオリチェに体を向けた。そして、そっと料理の皿をオリチェへと動かした。


「オリチェちゃぁん」


「……イヤです。見た目……怖いですから」


 オリチェは紙ナプキンのゴミを握りしめながら、テーブルに突っ伏した。まるで、全てを拒否したようにルーチェには見える。


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