同居人たち 7
ルーチェの返事を待たずに、マスターは横飲みに水を移していった。横飲みに水が満たされ、マスターは水面を静かに見ていた。水がこぼれないようにゆっくりと注ぎ口のフタを閉めた。その横飲みから水がこぼれないようにルーチェに手渡した。
受け取ったルーチェは飲み口から飲み始める。コップと違って一気に飲めるものでもないため、減りは遅かった。横飲みの中に気泡が浮かび上がっていった。ルーチェは横飲みいっぱいに入っていた水を飲み干す。
「…………」
そのまま無言で横飲みをマスターに返すルーチェ。その意味を察したのか、マスターも黙って受け取り、もう一度水を横飲みいっぱいに注いだ。
数回、そのやり取りをし、水差しの中身がすべてなくなった時、ルーチェは一言告げる。
「ありがとう」
「どういたしましてぇっ。それでぇ? 動けそうぅ?」
ルーチェは、マスターが言い終えるよりも早く、近くにあったブーツに手を伸ばす。
「そんなもの履かなくてもいいわよぉっ。オリチェちゃぁん。そこにあるスリッパ取ってぇ」
オリチェの方を見ずにマスターは言い、オリチェの方も小さく、はぁい、といいながら部屋から出てすぐに戻ってきた。その手には柔らかそうな履き心地をくれそうな、ふわふわとした見た目のスリッパがあった。濃い青色で汚れもあまり目立たないそれを、マスターを介して受け取ってから履くルーチェ。
足の裏からふんわりとしたタオル地のような感触が伝わってくる。
その感触を味わいながら、ルーチェはゆっくりと立ち上がる。体重を両足にかけた時、一瞬、ふらりとしてバランスを崩しかけるが、転ぶことなく立ち続ける。
「ちょぉっと心配だけどぉ、とりあえずこっちにきてぇ。起きたんならぁ、話しておいた方がいいだろうしぃ」
そういってマスターはオリチェの後を歩いていき、部屋から出たところで歩みを止めて、ドアを開いたままにした。ドアを押さえたまま、ルーチェの方へと視線を向けてきた。
どこかふわふわとした感覚を覚えながら、促されたルーチェはドアの方へと歩いていく。マスターの横を通り過ぎ、そのまま歩いていくルーチェ。ドアの向こう側に広がっていたのは、ルーチェがいつも見ていたリビングがあった。ルーチェはそこで足を止める。
リビングに入って最初に見えたのは、柱だった。木でできたその柱は円のようになっていて、床から天井まで突き抜けていた。太さもかなりあり、ルーチェ一人では、手を回すこともできないほどだった。柱の反対側、少し見切れてはいるがドアが見える。ルーチェの部屋と同じデザインのドア。そこはオリチェの部屋になっていた。
ルーチェの後ろでドアが閉まる音がした。視線を動かそうとすると、ちょうどマスターがルーチェの脇を通り過ぎていった。ルーチェがマスターを目線で追っていくと、その先に食事をするテーブルとイスがあった。テーブルの上には小さな紙ナプキンが置かれていた。テーブルの向こうにはドアが一つ見えた。そのドアの向こうは物置だとマスターから聞いたことがあった。しかし、そこに立ち入ったことはなかった。




