同居人たち 5
「それはぁ、わたしじゃなくてぇ、ポラーレちゃんにいってねぇッ。相手してたのは、ポラーレちゃんだしぃ。わたしがしたことはぁ、ルーチェちゃぁんが目を覚ますまでぇ、看病してただけよぉ」
マスターがベッドから立ちあがった。反動でわずかにベッドが沈み込んだ。マスターはそのまま、小さなテーブルまで歩いていき、横飲みに残った水と水差しの水を透明なコップに注いだ。マスターが水差しを置いた時、カランと小さな音がなった。その音を背にしながらマスターは、ルーチェのところまでコップを持ってきた。
「とりあえず、少し飲んだらぁ? いくらルーチェちゃぁんでも少しは飲まないと無理でしょうぉ?」
「……ええ」
返事をして体を起こしコップを受け取るルーチェ。体を起こした拍子に少しだけバランスを崩しかけたルーチェ。ベッドに手をついて倒れるのを防ぐ。冷たく濡れた感触が手に伝わってきた。渡されたコップはガラスではなく、プラスチックだった。コップの中の水が冷たさをルーチェの手に伝えてきていた。口をつけるルーチェ。そのまま勢いよくコップの中の水を飲んでいく。いつのまにかコップを逆さにして飲み干していた。ルーチェはそのコップをマスターへと突きつける。
「悪いけど……もう一杯、くれる?」
「あらぁ珍しいぃ。ルーチェちゃぁんが甘えるなんてねぇ。さっき起きたばっかりだからねぇ。いいわよぉ」
再び、コップに水を注ぎ、ルーチェに渡したマスター。まるでスポンジに水をしみこませるように、勢いよく飲んでいくルーチェ。その口の端から水がこぼれるのもお構いなしにゴクゴクとのどを鳴らして飲んでいく。ルーチェの着ていた服に水のシミができていく。
「そんな焦らなくても、誰も取らないわよぉッ。ゆっくり飲めばいいのにぃ」
マスターが、小さくため息をもらしながらルーチェにいってきた。ただ、その表情は柔らかなものになっていた。
空になったコップをもう一度、マスターへと向けるルーチェ。
「はいは――」
「あーもうッ!」
ドアの向こうから突然大きな声が聞こえた。と、同時にルーチェの部屋のドアが勢いよく開かれた。あまりの勢いに、ドアクッションにぶつかり大きな音を立てた。思わずルーチェは壊れるんじゃないかと思ってしまう。
音に驚いたのはルーチェだけではなかった。その大きな音にびっくりしたのか、マスターがルーチェから渡されたコップを取り損ねて、床へと落としてしまった。軽い音が床から聞こえてきた。が、ルーチェはいきなり開いたドアから意識を外すことはできないでいる。
「マスターッ! 何とかしてくださいよッ! オリチェには無理です!」




