同居人たち 2
「あっ」
声の主が小さく声をあげた。
「まっ、いいわよねぇ。どうせ乾くしぃ」
しかし、その声はすぐに気楽なものに変わっていた。コトンという音が聞こえ、足音が小さく、少しずつ大きくなって聞こえてきた。やがて音が止まった。
と、ルーチェの口に何かが当てられた。細いが固い何かが、強引に唇に当てられ、そのまま中へとねじ込まれてきた。
「ルーチェちゃぁん。ちょぉっと飲んでぇっ」
声の主の言葉と一緒に、口にねじ込まれた物から何かが入り込んできた。それは液体で一気に流し込まれた。ルーチェの体はその液体に反応できなかった。突然、流れ込んできたことと、その量が本来流れ込むべきところではないところに入っていったことで、ルーチェの体が劇的な反射を起こした。
「ゴホッ、ゴボッ!」
液体が口や鼻に入って逆流をしていく。呼吸ができず、何度も咳き込むルーチェ。咳き込むたびに、一瞬の空気の隙間ができるが、その隙間に液体が入り込み、ルーチェの体が空気を求めてあえいでいく。体が上下にはねた。
「る、ルーチェちゃぁん! ご、ごめんねぇっ!」
謝る声が聞こえたが、それに反応などできない。ルーチェは体を何とか横に向け、さらに咳き込む。横にしたおかげか、鼻や口から液体が垂れるようにして流れ出てきた。流れ出るほどに咳をする回数が減っていく。ルーチェは横を向いたまま、咳を続けていた。やがて、流れ出るものがなくなると、息をすることが徐々に楽になっていく。
「は、はぁ、はぁはぁ……」
「大丈夫ぅ? ルーチェちゃぁん?」
寝ながらにして溺れかけたルーチェ。視界が徐々にはっきりとしてくる。
「…………」
「何よぉっ、大丈夫なんだからぁ、いいでしょうぅ」
見えるようになった目で睨むルーチェ。そこにはマスターが横飲みを手に持ったまま、中腰になってルーチェをのぞき込んでいた。マスターの表情にはまったく悪びれた様子はなかった。
マスターはいつも着ているピエノパッチの制服とは違うものを着ていた。わずかに黄色みがかった白のボタンのないシャツに濃紺のズボンという姿をしていた。
何度か咳をしながら、視線をマスターから外して体を起こすルーチェ。
「ちょっとぉっ、大丈夫なのぉ? ルーチェちゃぁん?」
「……ゴホッ……大丈夫」
空咳を一つ入れて、ルーチェは答える。
「ならぁ、いいんだけどぉねぇん……」




