ピエノパッチで暴れる赤 9
気合を含んだ声とともに、ルーチェは左足を踏み出す。滑り込ませるように動き、赤い髪の隙ができた体へと接近する。踏み込んだ左足に合わせて、左腕を伸ばす。痺れは残っているようで握ることはできないが、手の平を突き出せすことはできる。ルーチェは左手を伸ばし、赤い髪の胸部に左手の掌底を叩き込む。ぐにゃりとした感触の後にルーチェ自身の体重が左手の付け根に一気に乗った。その感触はすぐに抜けていった。
「!」
赤い髪が宙を舞っていった。綺麗な放物線を描いて、ピエノパッチの空間を浮かんでいき、床に叩きつけられるように仰向けに落ちた。赤い髪はすぐに立ち上がる気配もなかった。しばらくして、何度も咳込み始めた。口からはよだれのようなものが大量に流れ出ていた。動きは止まったが、ルーチェは警戒を止めない。ルーチェの体からは勝手に汗が噴き出し、止まらる気配はなかった。心臓が早鐘のように打っている。左手は震え始め、痛みが再び走り出す。
「た、倒したのか?」
「すげぇ! あの暴れまわってたやつが倒したのか?」
「さすがルーチェ!」
ピエノパッチの中にいた客たちが口々に声を上げだした。その歓声を向けられていたルーチェはそれでも赤い髪から目を離さない。汗は変わらず出ていた。警戒をしながらも、体を動かすこともできないでいる。
客たちが少しずつ、物影から現れてルーチェへと近づいてきた。やがて、集まってきた客たちが垣根のようになった。
ルーチェはその垣根の隙間から、赤い髪を見続ける。
いつのまにか赤い髪がしていた咳は止まっていた。そして、ブルブルとけいれんを起こしたかのように震えていた。震えながらゆっくりと仰向けからうつぶせに転がった。両手を床について、震えながら徐々に体を起こし始めた。すぐに上半身が完全に起き上がった。両膝を立てたままで動きが固まり、両腕がだらりと体の横に垂れ下がっていた。首も下に曲げられていて、ルーチェからも顔はみえない。
「どいて!」
口を動かすのと、大きな音が鳴ったのは同時だった。
ドンッという音とともに赤い髪が右足を踏み込んで立ち上がろうとしていた。ピエノパッチにいた人間はそれぞれ自分に近い方を見た。ある者はルーチェを、ある者は赤い髪を。
「お、おい……」
「さっきのでも倒せないってのか……?」
「る、ルーチェ!」
戸惑う声が巻き起こり、客たちは散り散りに元の物影へと戻っていった。その波に逆らうようにルーチェは赤い髪の前へと行く。客たちもルーチェの邪魔だけはせず、ぶつからないように通していった。
ルーチェは赤い髪の目の前に立つと同時に、なりふり構わず右手で拳を作って殴りつける。
その拳を左腕で止めた赤い髪。顔が上がった。赤い髪の充血した目は少しだけ治まっているように見えた。瞬間、赤い髪は左腕をクルリと回し、ルーチェの右手をつかんだ。そのまま、下へと引っ張りながら左腕を内側に締めた。




