ピエノパッチで暴れる赤 8
「抱きつけ!」
再び投げかけられた言葉。
ルーチェは反射的にその言葉に従う。左足を踏み込んで、距離を詰める。赤い髪の右足の横に左足を置く。左手は首の後ろへ、右手はナイフをはじいた左腕へともっていく。しがみつくことに成功するルーチェ。
しがみついているルーチェを引きはがそうと、赤い髪が左足を上げた。その動きに合わせて、左手を引き、右手を押し上げるルーチェ。腰の上に赤い髪の体重がわずかに乗ると同時に、左手をさらに引く。
ドンッという衝撃とともに、赤い髪が床に倒れていた。ルーチェは投げ飛ばした赤い髪から距離を取り、左手から落ちたナイフを回収する。しかし、それを構えることなくジャケットの中に納める。距離は空けたまま、ルーチェは左半身を後ろに下げる。
一度、気づかれない程度にそっと深呼吸をするルーチェ。それから視線を赤い髪の左足に向ける。明らかに右足に比べて太い足。そこから繰り出される蹴りをルーチェ自身も味わっていた。その一撃は、赤い髪が持つ攻撃の中で間違いなくもっとも威力が高かった。
倒されていた赤い髪が立ち上がった。自分の体の状態を確認することもなく、ルーチェへと向き直ってきた。ダメージを受けているようにはルーチェには見えない。
ルーチェはそれを見ながら小さくつぶやく。
「アルテファットの能力は何……?」
左足はあきらかにアルテファットに改造されていたが、ルーチェには何の変化も見つけられない。つまりそれは何も発動していないということを意味していた。
まるで、ルーチェのつぶやきに答えるように赤い髪がつっこんできた。フェイントも何もなく、ただただまっすぐにつき進んできた。
左手は軽く開き、右手は握りこみ、右腕だけ立てるようにしてルーチェは構える。わずかに両膝を曲げる。
絶対の自信なのか、赤い髪がルーチェの構えなど一切無視して、左足で蹴り込んできた。遠心力を生かした前まわし蹴り。確実に当てようとしているのか、高さは中段の位置。アルテファットの足は腰を回し始めたところまでは膝が曲げられていた。が、膝がルーチェの方に向いた時、足先が伸ばされた。ルーチェには足が一気に伸びたようにも見える。
その左足にルーチェは右腕を下からすくい上げるようにして当てにいく。姿勢をしゃがみ込ませ、縦に構えた右腕を斜めにし、肘を足先に当てて拳に向かって滑るような軌道を作り上げる。
足を受けた瞬間、ルーチェの右腕に想像を超えるほどの重さがのしかかった。その重さに右腕が下がりそうになるが、さらに姿勢を低くして耐える。頭の上を通り過ぎていった左足。右腕の向こうに見えた赤い髪の表情は驚きというものがなく、血走った目があるだけだった。
「もらう!」




