ピエノパッチで暴れる赤 6
言い捨て、ルーチェは赤い髪の方へと踏み込む。赤い髪もまたルーチェへと右足で踏み込んできていた。同時に蹴り足として左足の膝が向かってきていた。ルーチェはその膝を右手の平で受け止める。さらに伸びてきた左足のすねを、右肘で抑え込む。それでも衝撃は右腕に伝わってきていた。押し込まれそうになりながら、何とか踏みとどまって耐えるルーチェ。
耐えた姿勢から左膝をあげるルーチェ。
赤い髪は一瞬早く、空中に飛んでいて、右足を振り抜いてきていた。それをあげた左足で防ぐ。左足ほどではないにしても、右足もかなりの威力を持っていた。床につけた右足だけで何とか耐える。
ルーチェは左足を床につけるよりも早く、左手でナイフを抜く。抜いた勢いのまま、ナイフを一気に振り抜き、左足も踏み込む。赤い髪はルーチェの左手の動きに合わせるようにして、右の拳を当ててきた。左手の指に強烈な重さが走った。手の動きが一気に鈍った。
「くっ?」
鈍った左手ではナイフを持ち続けることができず、落としてしまう。
同時に、一瞬の停滞がルーチェに生まれる。それはナイフが床に落ちるまでのわずかな間。
そのわずかな間に、赤い髪は左足を一歩後ろに下げていた。姿勢も後ろに下げられていた。
「オオオオォォォッ!」
赤い髪が初めて吠えた。ルーチェの目の前で叫びをあげながら、体を回して左足で蹴りこんでくる赤い髪。ルーチェは左手の痛みもあり、どう動けばいいのか、答えが出せず迷う。
ナイフが床につき立った乾いた音がした。
「右足を踏み込んでください」
「!」
どこからか声が聞こえ、その声に言われるがまま反射的に右足を踏み込んだルーチェ。ルーチェと赤い髪の距離がなくなり、赤い髪の太ももがルーチェにぶつかる。蹴りをくらいはしたものの耐えられないことはない。そう判断したルーチェは、ほぼゼロ距離で右の掌底を赤い髪のあごに叩き込む。
「オゴッ!」
きいたこともないような声が頭の上から聞こえた。効いているのか、よろめくように後ずさった赤い髪。
お互いの動きが止まり、距離が空く。
目を逸さぬまま、ルーチェはゆっくりと左手を開いてから閉じる。開ききる途中と、閉じている途中で手の動きが止まる。痛みが走り、力が入れづらい。思わずルーチェは視線を左手に向ける。わずかに指先が震えている。折れているわけではなさそうだが、明らかに左手にダメージが蓄積している。
目線を戻し、赤い髪を見る。
赤い髪は頭を押さえながら何度か首を振っていた。せわしなく振っていたが、徐々にその回数は減っていき、やがて動きが止まった。頭を押さえていた手をゆっくりとおろした。頭と一緒に揺れていた民族衣装もゆっくりと動きを止めた。
目が合う。しかしそれは見つめ合うような生易しいものではなく、明らかににらみ合うというものだった。
赤い髪の目はいまだ充血していた。むしろ、先ほどよりもより赤く変色しているようにルーチェには見える。




