ピエノパッチで暴れる赤 4
「くっ!」
繰り出された左足が青年に接触する直前、小さな苦悶の声とともに青年は不思議な行動を取った。突然その場で青年が腹を押さえてうずくまった。それも床に頭をつけるほど低くして。
「えっ?」
思わず声がもれる。
うずくまる青年の体の上を赤い髪の蹴りが通り過ぎていった。轟音をまとっていたのか、ルーチェの耳まで音が聞こえる。蹴りが通り過ぎた直後、青年が顔だけを上げた。
もはや止まる理由などなく、ルーチェは二人の間に向かって走っていく。すでに赤い髪は次の動作を始めていた。間に入って止めるには間に合いそうにない。
赤い髪の蹴り足だった左足を軸足の右足近くまで引き寄せて止まった。一本足で立ったその姿勢から動きを切り替えていた。膝を一度折り曲げ、左足を上げた。軸足はまったく動かさず、左足で踏み込むように動いた。確実に踏み潰すつもりだ。
足の裏全体を叩きつけるようにして踏み込んだ赤い髪。顔をあげた青年は腹を押さえながら、左横に転がった。青年の体が半回転をした頃に、赤い髪の左足がピエノパッチの床を強く踏み抜いた。床が破壊され、床材が衝撃で起き上がった。同時に赤い髪の左足が床に突き刺さった。
「あ、危なかった……」
両手で腹を押さえながら、青年は上体を起こし、右膝を立てていた。
だが、赤い髪は素早く次の行動に移った。突き刺さった左足を軸足に切り替えて、右足で蹴り込んできた。左足が床を抜いていることを考慮してなのか、あるいは高さをコントロールしてなのか。青年が立たなければ顔に、立てば右足に当たるような蹴りを放っていた。
「えっ?」
青年がぽかんとした表情をしていた。ここまでの予想をしていなかった、そう言いたげな表情。
右足の蹴りが風をまとって近づいてきた。
蹴りよりもほんのわずかに早く、ルーチェは赤い髪と青年の間に入り込む。右足を食らうことを覚悟し、空中に身を躍らせ青年を強引に押していく。右足はちょうどルーチェの背中側にあった。
ルーチェの背中に衝撃が走る。ジャケットの中のナイフに蹴り足があたり、重さが伝わってくる。直後、ルーチェの体の軌道が一気に変化し、床方向へと叩きつけられるようになった。まるで飛び上がった直後に叩き落された鳥のようになった。
「ぐはっ!」
受け身を取ることも許されず、うつぶせに床に叩きつけられ、骨がきしみ、内臓が揺さぶられる。腹の底から酸っぱいものが上がってくる。口の中にとどめることもできず、そのまま漏れ出す。あまりの衝撃にほんのわずかな時間、ルーチェの意識が飛びかける。それでも、ルーチェは自分の中に残った意識を残らずかき集めて、何とかつなぎとめる。つなぎとめたものの、ルーチェは自分が今どういう状態なのか、すぐに把握することができない。




