ピエノパッチで暴れる赤 3
目線を対峙する二人に戻す。
その時、赤い髪の人物は走るオリチェへと顔を向けた。
そこではじめてルーチェは赤い髪の顔を知る。左足と同じくらいに白い肌、目が髪と同じく真っ赤に充血していた。顔の左側には傷跡があった。皮膚が何かによって削り取られたようにも見える。赤い髪がオリチェへと体を向けた。今、唯一ピエノパッチの中で動いている人物へと。
オリチェがマスターのところに着く直前、その人物が左足を踏み出した。その下でみしり、という音が鳴った。その音がオリチェの耳に届いたのか、オリチェは顔だけをむけていた。
目が合った。
ルーチェにはそう見えている。
「逃げて! 店員さん!」
店の中央から青年が赤い髪から視線を外さずに叫んだ。
赤い髪がさらに一歩動いた。立ちふさがるようにして、青年が赤い髪の前へ出た。その動きを読んでいたかのように、赤い髪が踏み出していた右足で薙ぐように蹴りを放った。青年の左側から繰り出された蹴りは、膝を曲げたまま放たれた。威嚇するようなものではなく、確かな鋭さを持っていた。青年の左の胴体へと突き進んだ。
ルーチェの目には青年が何をしても間に合わないように見える。腕で防いでも、腕ごと蹴られるだろうし、防がなければ内臓を破壊される可能性がある。それほどの威力を持った蹴りだった。
「うわっ」
青年の声は明らかに動きに追いついていないことを示しているように見える。
しかし、ルーチェの予想は外れる。
蹴りの動線にあったはずの青年の体が、左足を下げることで後ろへ移動した。そこは右足が届かない位置だった。青年が避けたことで振り抜かれるはずだった蹴りが止まり、軌道が変わった。ピタリと止まった右足の膝が伸ばされ、蹴りだす形に切り替わった。青年から見れば右足が伸びたように見えたはず。
それでも青年は動じている様子は見えなかった。元の位置に唯一残っていた右足のほうへと右手を近づけるように体をねじった。赤い髪の右足の爪先がわずかに青年のお腹の部分をかすめた。
「!」
二回連続で当たるはずの蹴りが当たらなかったことで、赤い髪の目が見開かれた。それも一瞬のことで、すぐに右足を床にたたきつけるように落とした。今度は右足を軸足にして左足を回し蹴りの要領で放ってきた。下半身を無理矢理切り替えたそれは右足に負荷がかかっているだろうが、それ以上に回転の威力が乗っていた。加えて軸足が踏み込む形になっていたため、青年との距離は縮まっていた。
青年の位置では三度目の奇跡は起こせるわけがなかった。攻撃を回避できない位置にいて、近づけば膝が、離れれば足先が叩き込まれる形になっていた。
ルーチェの位置からでは間に合わないが、それでも助けるために一歩を踏み出す。
しかし、二歩目に戸惑う。




