なれあわないもの 12
ゆっくりとした口調で話しながら、自分の横のスペースを軽く叩いたポラーレ。その言葉に促されるように、ルーチェは人が間に座れる程度の空間を取り、シートに腰を下ろす。ポラーレは穏やかな笑みを浮かべてルーチェを見ていた。ルーチェはどうすればいいかわからず、視線をポラーレに向けてから地面へと下ろす。
「ルーチェさん……僕の考えをルーチェさんにお伝えしようと思います」
「!」
驚いてポラーレのほうを見るルーチェ。そこには穏やかな笑みはなりを潜め、口は真一文字になっていた。その口がゆっくりと開いた。
「そんなに驚いたような顔をしなくてもいいではないですか。……ゴホン」
軽く、咳ばらいをしてから話し始めたポラーレ。
「まず、目撃したリナシッタさんですが、ルーチェさんが見たのなら本物のリナシッタさんなのでしょう。実の妹が見間違えるはずがないというのは、よく考えれば当たり前のこと。ですので、黒い髪になっていたとしてもルーチェさんが見たリナシッタさんを捜索していきましょう。リナシッタさんが見つかれば、髪が黒くなった理由も、いなくなった理由もわかるでしょう」
「ありが——」
「それと、」
しゃべりかけるルーチェの言葉に、ポラーレが重ねてきた。先に話し続けたのはポラーレ。
「これは想定としてですが、仮に黒髪の女性がリナシッタさんではなかったとしても、追いましょう。なぜ、リナシッタさんにそっくりなのか。先ほどとは反対になりますが、実の妹が勘違いするというのは明らかにおかしな話だとこちらは考えます。ですので、おそらく何らかの形でリナシッタさんが関係していると考えて間違いないでしょう」
話しきったポラーレは下がってもいないメガネを、右手の人差し指で押し上げて位置を整えていた。その行為に意味がないことに気付いたのか、ポラーレはその手を少し下げて口ひげをさわった。
「それでよろしいですか? ルーチェさん?」
口元を隠して見せないまま、ポラーレはルーチェにたずねてきた。
視線を外さずに、両肘を膝の上にのせて前かがみになるルーチェ。両手は宙で動かしている。
「それは、私が見た姉さんが本物だろうと、偽物だろうと追いかける、そういうことね?」
話すうちにだんだんと視線が鋭くなっていく。ほぼにらんでいるのと変わらない状態になっていたにもかかわらず、ポラーレはその視線を真正面から受け止めていた。視線をそらさずに、一言だけ告げてきた。
「はい」
「わかった。お願い」
ルーチェも短く答える。それから両膝に手を当てて立ち上がる。
「ポラーレ。あの警察はいったい――」




