なれあわないもの 11
「痛ッ!」
反射的に肩から手を放したポラーレ。肩から手が離れたのを確認し、合わせるようにしてルーチェも手を放す。
「廃ビルから、この区画に入っていくのが見えた」
ポラーレから視線を動かし、手の入っていない区画を見る。そして、淡々と事実だけを告げるルーチェ。告げながら、その視線は徐々に下がり、手元へと落ちていく。
「すいません。それで、追いかけたんですよね?」
「そう。でも、追いきれなかった……」
ポラーレの謝罪には答えず、静かにルーチェは告げる。自分自身に起きたことだけを。ルーチェの両手が顔へと上がってきて頭を抱える。目を閉じる。
車両が静かに揺れるのをルーチェは感じる。手をわずかに横にずらし、ポラーレのいた方を見る。
ルーチェの隣に腰を下ろしたポラーレの姿があった。少しだけ距離を空け、斜めに座りルーチェを視界にとらえられるようにして。
「そうでしたか……わかりました。ルーチェさん、リナシッタさんは、変わらない様子でしたか?」
「かなり離れていたから、なんとも……。ただ、髪の色は黒かった」
ルーチェはわずかに頭をあげるが、顔はうつむいたまま手を見つめながら答える。
「髪……ですか。女性ですからイメージを変えるために染めることはあるかと思いますが……」
ポラーレが座ったまま体を動かしている音が聞こえた。もう一度顔を横に向けるルーチェ。あごを右手の親指と人差し指で挟むようにして何度も撫でながら、小さく、ふむ、とつぶやいていた。
「あのきれいな金色の髪を染めるとは、思えないです。ルーチェさん、失礼を承知でおききしますが、似た人、ということはありませんか?」
「!」
反射的に立ち上がりながら胸倉をつかんで持ち上げるまで、瞬きほどの時間もなく、ルーチェは行動する。ポラーレの胸倉をつかみながら、完全に立ち上がっている。背が高いはずのポラーレの体がわずかにうきあがっていた。
「私が見間違えたとでも? 実の姉を見間違えることなんかない!」
「る、ルーチェさん! お、落ち着いてッ!」
つかまれている手を叩きながら、ポラーレはルーチェに降参を示した。手を叩かれたことで我に返るルーチェ。力を緩めると、ポラーレがわずかな距離を落下した。そのままの勢いで車両のシートに座り込んだ。
「ご、ごめん……」
ルーチェは手を放しながら謝罪を口にする。その声はかすれるように消えていく。
「大丈夫ですよ、ルーチェさん。こちらこそ、ルーチェさんのことを考えていない発言をしてしまいました。申し訳ない」
「いや……。でも、私はあの時見たのはリナシッタだと思ってる」
「……ルーチェさん。とりあえず、座りましょうか?」




