なれあわないもの 4
「うっ」
小さな悲鳴が聞こえてきた。平たい包丁はそのまま振り下ろされてきたが、ルーチェは包丁をわずかに身をひねることで避ける。上げていた左手のナイフの刃を返し、平たい包丁に振り下ろす。
乾いた音とともに、平たい包丁の刃と柄が分かれた。ストンと刃が地面に突き立った。その刃の上を通るようにして、左足を水平に動かし蹴りを出す。足はまっすぐに平たい包丁を持つ男の足にぶつかった。衝撃がルーチェの左足に伝わり、何かが壊れたような感触がある。
「うわぁぁぁっ」
先ほどよりも大きな悲鳴を上げて、平たい包丁を持つ男が倒れた。背中が地面に突くよりも早く、ルーチェは立ち上がり、次に狙いを定め駆ける。進む先にいた角材を持った男の角材を左手のナイフだけで三つに切り捨て、腹に拳を叩き込みさらに踏み込む。
「くっ。強いぞ! 囲んで複数でかかれ!」
「アルテファットを叩きだせ!」
周囲から次々と声が上がり、手に持った獲物でルーチェに襲い掛かってきた。それはルーチェを取り囲むようになっていた。
「ぐっ」
角材を持った男を盾にして、前からの攻撃は防ぐ。だが、横や後ろからの攻撃のすべてを防ぎきれない。右手一本でのこぎりと鉄パイプを逸らすことはできたが、角材と投げられた石は避けられず、肩と腕に当たった。その痛みでナイフを落としてしまう。
「武器を落としたぞ!」
「やれぇっ!」
好機と見たのか波のように襲い掛かってきた男たち。左のナイフでのこぎりと鉄パイプを切り落とすが、包丁に斬りつけられ、ジャケットに傷が走る。ルーチェは焦らず冷静に包丁を持つ手を蹴り飛ばす。そのまま、姿勢を下げて地面にささったナイフを順手で抜き取る。
全方位からの攻撃を、時にはいなし、時には止められずに受けるということが続いた。徐々に傷が増えていった。
「こ、このままじゃ……また、どっかにいっちゃう……」
ルーチェは攻撃をいなしながら、歯を食いしばりつつ、つぶやく。徐々に手に力が入りにくくなってきている。それでも相手を殺さずに制圧を続けている。地面には気絶した人間が増えた。それでも倒しても倒しても、あとから現れていた。みれば、気絶させた人間を安全域まで引きずる者までいた。その後ろから体力を回復させた人間が再び襲ってきた。
「くそっ……」
襲ってくるやつらは絶えず、ルーチェは一瞬ごとに傷が増えていく。血が流れるとともに心が萎えていくのをルーチェは感じる。
「こんなのだから……さっきの人も助けられなかった……」
口に出した時に目の前に角材が飛んできた。反応すらできない位置での攻撃に思わず、目を背けるルーチェ。
バキッという音がルーチェの耳元で聞こえた。




