なれあわないもの 3
「アンタ。アルテファットだろ? なんでここにいるんだ?」
男がルーチェにたずねてきた。同時にここから先には行かせるつもりはないといった風に腕を広げた。その動きに合わせたように男の持つ包丁が鈍く光った。
「人を追っている。通してほしい」
ルーチェが男に頼む。しかし、ルーチェの言葉に男が答えることはなかった。代わりに持っていた平たい包丁を突きつけてきた。その先端にはわずかに脂がついているのが見える。
「もう一度聞く。アルテファットごときが、いったいなぜここに来た?」
「姉を追っているの! だから、とおして!」
叫びをあげながら突きつけられた平たい包丁に踏み込む。眼前に包丁がくる。しかし、男も平たい包丁を持つ手を下げることはしなかった。
「姉? ここにアルテファットの女などいない。アンタらのような《人間崩れがいるわけないだろう」
男はルーチェの言葉と、ルーチェ自身を否定する言葉をついた。
ルーチェはその言葉を聞き、気づかれないように息をついて手の中の光る石を足元に転がす。地面に石が転がると同時に右手でナイフを鞘から抜くルーチェ。流れるようにジャケットからも抜き出し、逆手に持つ。
「くっ、何をしやがる?」
包丁を持つ男の前に突然現れた光が、男の目をくらませた。左手で光を遮りながら話していた。
「アンタ。それを出したってことは、やろうっていうことだな?」
横手から声が聞こえた。同時にガサゴソと音が立ち、人の気配がルーチェに近づいてきた。家や店の仕切りが次々と開いていった。ルーチェの見えるところだけでも何人もの男が手に獲物を持って現れた。角材、鉄パイプ、様々な形と長さの包丁、のこぎりなど。相手を害することをためらわないものを持っていた。
「……もう一度だけいう。ここをとおして」
ゆっくりと胸の高さまでナイフを持っていきながら静かに告げる。頼むというよりも、懇願するような声になったことにルーチェ自身驚く。
返答は言葉ではなかった。背後から何かが振り下ろされた音が聴こえた。
ルーチェは姿勢を低くすると同時に左のナイフを抜き、見ずに後ろに向ける。逆手に持ったナイフに衝撃が走る。視線を送ると、鉄パイプがナイフとぶつかっていた。わずかにナイフを下げて、鉄パイプとの隙間を空け、すぐに振り上げる。
スパンッ、という音に続いてガランガランという音が響き渡った。鉄パイプが切断されて落ちていた。その音を合図にルーチェはしゃがみ込みながら、目の前にいた平たい包丁を構える男に近づく。
「コイツっ!」
目のくらみから回復した男が叫んだ。手に持つ平たい包丁を振り下ろしてきた。
ルーチェはしゃがんだ姿勢のまま、さっき転がした光る石を真上に投げる。それはちょうど平たい包丁を持つ男の目の前に飛んだ。




