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白い影と黒い獣 6

「ガアアアアァァァァッ!」


 獣が攻撃する前脚を地面に押し付けた。それを見た真っ白な男がわずかに動きを緩めた。獣はその緩みを見逃さず、反対の前脚を真っ白な男の背後から動かした。まるで挟むようにして前脚を動かした獣は、真っ白な男の退路を完全に断ってた。


「…………」


 しかし、真っ白な男は焦りの表情も見せずに走っていた。獣の脚が迫ると足を先に出して床を滑るようにして進んでいった。真っ白なローブが翻ることはなく、男の身を包んだままだった。真っ白な男はスライディングをしていた。獣がつくった穴に向かって。


 穴に届くかどうかというところで、獣の前脚が真っ白な男を挟み込んだ。


 粉塵が巻きあがり、視界を奪われた。かろうじて、黒い獣の姿はうっすらと見える。


「どうなってやがるぅ、ルーチェッ!」


「この状況でわかるわけないでしょう!」


 ペルデの間の悪い質問に、苛立ちを隠さず怒鳴って返事をする。しかし、ルーチェの言葉を無視したような言葉が投げ返されてきた。


「てめぇのいる場所からなら見えてんだろうがよぉッ! さっさと確認しやがれッ!」


「逃げろっていったり、確認しろっていったり、勝手な奴……」


 これ以上の言い合いに無駄なものを覚え、ルーチェは姿勢を低くする。右のナイフをジャケットの中に片付け、足元に転がる欠片を拾う。力を込めると、胃が動き出した感覚が襲ってくる。ルーチェは腹から上がってきた空気を吐き出し、右手に持っていた欠片を獣と真っ白な男がいた方向へと投げる。


 欠片は光を放ちながら低い放物線を描き、粉塵の中を突っ切っていった。


 粉塵の中に確認できたのは獣だけ。真っ白な男の姿は見えない。そのため不意を突かれることを警戒し、ルーチェは動けない。右のナイフをもう一度静かに抜く。


「アオオオオォォォォォッ!」


 獣の咆哮がビルそのものを揺らした。間近で咆哮を浴びたルーチェは反射的に耳をふさぐ。ナイフはルーチェの足元に突き立てている。しゃがんでいたことが結果的にいい方向へと向かった。


 咆哮が終わると同時に、何かが破壊される音が響いた。次いで風が起こり、粉塵がビルの外へと飛び出していった。


 粉塵が流されたことで、ルーチェはビルの中を確認できるようになる。


「なっ!」


 そこには獣も真っ白な男も姿を消していた。残っていたのは獣が開けた穴とペルデだけ。


 穴をのぞき込むが、そこにあったはずの金の卵の男の体もなかった。


 ルーチェは窓枠すらもなくなったビルの向こうをみる。うっすらと見える獣の姿。


「っ!」


「ったくなぁんにもないじゃねぇかッ! これじゃぁ、ファーマエンダからもらえるもんももらえねぇじゃねぇかぁッ! どうすんだよルーチェッ!?」


 ペルデからの言葉を完全に無視して、ルーチェは窓から飛び降りる。落下しながら、両手のナイフをジャケットの中に仕舞う。グッと押し込むと、ナイフの柄が固定された音がした。


 わずかな浮遊感の間、まっすぐに獣の姿をとらえ続ける。


「おいッ! てめぇ何してやがるッ!」


 上からペルデの酒焼けの声が追いかけてきた。しかし、ルーチェにとってはどうでもいい。


「……なん、で?」


 勝手に口が動いている。地面に着地すると足の裏から全身にかけて雷が走る。ルーチェはそれを無視して、体を転がし、一か所に溜まった衝撃を受け流す。一回転を終えた後、勢いそのまますぐに駆け出す。ルーチェの目は黒い獣をとらえたままでいる。いや、その隣の人物をとらえている。


「……姉さん」


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