表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/125

白い影と黒い獣 4

「は、放せッ! 放してくれッ!」


 金の卵の男が叫んでいた。しかし、獣は全く意に介した様子もなく、つかんだまま窓へ向かって歩き出した。窓に近づき、ビルから出ようとしていた。座り込むほどの衝撃を受けていたにもかかわらず、その動きに影響はないようだ。


「待てッ!」


 ルーチェは叫び、動きを止めようと獣へと跳躍する。空中を移動する間にルーチェへ向けて声が飛んできた。


「ルーチェッ! 何としても止めろッ! マズいッ!」


 獣の向こう側にペルデの姿が見える。しゃがみ込んでいたペルデが、ルーチェに向かって叫んでいた。


「わかって――」


 叫び返そうとした時、白いものが映りこんでくる。


 言葉を忘れ、反射的に目が白いものを追っていく。


 金の卵の男をつかむ獣の前脚。そこに、真っ白な影、いや、いなくなったはずの真っ白な男が現れた。


「…………」


 真っ白な男が獣の前脚をつかんだ。獣は真っ白な男を振り落とそうとしていたのか、空中で何度も前脚を振り回していた。空中で暴れまわる獣の前脚。その前脚を挟むようにしてつかまれている金の卵の男と、微動だにせず平然と掴まる真っ白な男。


 恐怖に塗りつぶされている金の卵の男に対して、真っ白な男は全く動じた様子がなかった。縦横無尽に動き回る獣の脚に悠然と掴まっていた。


 獣の前脚の動きがほんのわずかに鈍った後に、一気に激しくなった。


「グウウウウゥゥゥゥッ」


「う、ぐっ……」


 低く唸るような獣の声がルーチェの耳元で聞こえる。同時に小さなうめきのような声も。しかし、それよりもルーチェは別のことに目を奪われる。


 獣の前脚につかまれていた金の卵の男の腹から五筋のものが飛び出していた。見覚えがある。真っ白な男の爪。


 空中を移動していたルーチェは獣の顔あたりに行く形になる。獣が首を振って暴れたため、ルーチェは獣の顔にぶつかる。弾き飛ばされてエレベーターのほうへと飛ばされていく。空中で何とか姿勢を入れ替えて、足側から壁につくことができた。


「くっ」


 壁に着いた両足を目いっぱい曲げてしゃがみ込み、すぐさま獣の前脚へと跳ぶルーチェ。移動している間も金の卵の男からは五筋の爪が幾度となく蠢いているのが見える。爪自身が徐々に真っ赤に染まっていった。


「がほっ」


 金の卵の男が血を吐き出した。浮いていた足の下には血だまりが作り上げられていった。それでも執拗に爪は蠢き、伸びた爪が戻って金の卵の男を正面側から串刺しにしていた。頭、喉、胸、急所という急所をすべて刺し貫き、至る所から血を噴出させていた。やがて、その出血の勢いは弱まっていった。


「ウグウウウゥゥゥッ!」


 獣が叫んだ。二人の男がつかまる前脚を再び振り回し始めた。勢いで窓から振り落とされそうになっていたが、真っ白な男の爪が二人を縫いとめて落下を防いでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ