白い影
ペルデがルーチェをはばむようにして入口に立った。左肩に赤いものがついていた。
押しのけるようにして先を見ると、そこにはあるはずの階段がなかった。正確には階段があった場所の壁際から少しだけ残っていた。そして、金の卵の男はないはずの階段を下りた先の踊り場に立っていた。
「アイツッ! あれを渡ったってのかぁ?」
ペルデがルーチェの横で壁に残った階段を指さしながら叫んでいた。反射的に片耳を押さえるルーチェ。
「うるさい! さっさとどきなさい! あそこまで跳べない!」
耳を押さえながら、負けじとルーチェが叫び返す。
その返答はペルデの拳。裏拳がルーチェへとむかってきた。接触直前に頭を下げつつ、後ろに重心をうつして拳を避ける。ルーチェは重心を後ろに下げながら、手に持ったままのナイフを横なぎに振る。その先にはペルデの横腹があるが、ナイフは空を切った。拳を動かす勢いを利用し、足の位置と同時に体も動かして、ナイフの軌道から体を外したペルデ。
二人の間に半歩ほどの隙間が生まれる。
そして、同時に前に出ている足で踏み込む。ルーチェはナイフを横なぎから突きへと切り替える。それに対し、ペルデは後ろに引いていたもう片方の腕を伸ばしてくる。ペルデの拳は白いものに覆っていて、両者がぶつかり合う。鋭いナイフの刃は白いものによって止められ、拳のほうもナイフの一撃を抑えるのにそのすべての威力を消費していた。
「どけぇ! ルーチェッ!」
「ペルデ! アンタこそどきなさい!」
至近距離でにらみ合う二人。ルーチェの目にもペルデの目にも殺意が噴出している。
かろうじて均衡している二人の力だが、わずかな拍子でどちらにも崩れてしまいそうな危うさがあった。両者ともに相手の隙を伺っている。
「う、うわぁっ!」
悲鳴があがった。ルーチェとペルデが階下の踊り場に視線を向ける。
そこには尻もちをついている金の卵の男とそれを見下ろす人影があった。その人影は頭のてっぺんから足のつま先まで真っ白だった。長いフード付きのローブでほぼ全身を覆い、わずかに見える足元も真っ白なブーツが履かれていた。唯一違ったのは手にある長細いもの。それだけは白ではなく、肌色に近い色をしていた。
「ペルデ! アンタと遊んでる場合じゃないのよ!」
「どうやら、そのようだ、なッ!」
ペルデに文句を言い終えるより早く、ルーチェの体は宙に浮かんでいる。
拮抗していたはずの力をペルデが先にずらし、ルーチェの首根っこをつかむ。そこから一気に壁際に向かって投げつけられていた。
「なっ!?」
文句をつけようにも、今の状況に対応できなければ、ルーチェはそのまま落下して死ぬ。ルーチェは瞬きよりも短い時間で、状況を整理し生き残れる方法を探る。飛んでいるのはまっすぐ階段の踊り場ではなく、右手の壁に向かって。つまり、わずかに残されていた足場に向かっているということになる。
壁際の足場まであと少しだが、届きそうにない。そう判断したルーチェは持っていたナイフを壁に突き立てた。ナイフが壁に亀裂を生みだしていった。全体重がすべて片手にかかるが、落下は止まる。足を延ばしたところで届きそうにはなく、反動をつけて跳ぶ必要があった。
「くっ!」
ナイフをつかみながら、わずかに体を持ち上げ、踊り場とは反対の方向へと足を動かす。右足の外側と左足の内側がつくような形をとり、ナイフを支点に振り子のように体が落下し始める。その動きに合わせて、壁を走り、足だけでのぼれるだけのぼる。ナイフの高さまではいかないまでも、半分ほどまでのぼる。頂点まで達したところで、ナイフを壁から抜き去り、今度はルーチェ自身の意思で壁を蹴りだす。
「とどけっ!」
叫びとともに跳躍するルーチェ。一瞬の浮遊感に包まれた後、すぐに落下感が襲い掛かってきた。そのまま落下し続けるよりも早く、足が壁際の足場に届いた。再びナイフを突き立てて何とか落下を防ぐ。
すぐさまペルデの方を見ると、ペルデ自身もまた宙に身を躍らせていた。
その方向は階段の踊り場。
「アイツ!」




