暴走渦巻くアバラックバーイア
ピエノパッチを通り、外へと出るルーチェ。
空には一面に灰色の雲が浮かんでいた。ルーチェの見える限り、その雲は続いていて、遠くには灰色よりもさらに黒い雲がその姿を見せていた。
「どうやら……多くの人間の手に渡っているようですね」
マスターが路上へと歩みを進めながら小さく告げた。ルーチェもマスターの言葉に従って視線を動かす。
そこで行われていたのは、ディスプレイで見たニュースの内容と同じものだった。
血走らせたような目をしたアルテファットを持つ人たちが、誰彼構わず襲い掛かっていた。倒されながらなおも殴られ続けていた人。逃げようとして横から殴り飛ばされた人。殴られすぎて意識がない様子の人を助けに入った人ですら、別で暴れているアルテファットに殴り倒され、巻き添えになっているような怖ろしい事態。それが目の前で繰り広げられていた。
ルーチェがジャケットの背中の方に手を入れようとする。その手が止められた。見れば、マスターがルーチェの手を押さえていた。
「気持ちはぁ、わかるわぁ。でもぉ、今はアナリズちゃんを見つけないとねぇん」
「それと、この方も合わせてお願いします」
そう言って、ポラーレが取り出した通信端末を操作していた。直後、ルーチェとマスターの通信端末から音がした。ルーチェが通信端末を確認するとそこには、ポラーレが依頼の対象として見せてもらった女性が写っていた。
「カネロ・ピディーグさん。彼女の捜索も同時にお願いします」
その口調は柔らかながらもハッキリとしたものだった。
「わかった」
短く答え、通信端末をしまうルーチェ。
「この辺りまでは、まだ警察は来てない、か」
「そうねぇ。手がぁ、回らないのかもしれないわねぇん」
ルーチェの言葉に周囲を見回したマスターが確認するように話した。
「それで? これからどうする? あまり時間はないけど?」
「ルーチェ。アナリズに関して言えば、ガンビーザを追っていることが考えられます。ですので、向かったとすれば警察でしょう。少なくとも、いなくなった時点ではガンビーザが留置場から出たことは知らないはずです」
ポラーレが通信端末で自分のあごを何度も叩きながら話していた。視線は誰にも合わせずに、地面を見続けながらその動作を繰り返していた。
「ポラーレちゃんの言う通りかもしれないわねぇん。手がかりはぁそこしかないからぁん」
「わかった……でも」
ルーチェが警察署の方へと顔を向けると、その方向には体の一部がアルテファットになった人たちが現れた。その誰もが、赤い瞳になっていた。
小さくため息がポラーレから漏れた。
「今は彼らに構っている暇はありません。いちいち全員の相手はせず、押し通れるなら、一気に通り抜けていきましょう!」




