忘れていた音 9
ディスプレイ機器を見ながら促してきたマスター。ルーチェは頷いて通信端末の操作を再開する。画面がさらに下にスクロールした。
「二回目以降の投与も書いてある。どれも、アルテファットを暴走させることはない、か。他の人には書いてないから、この人に何かある?」
「そうなりますね、ルーチェさん」
「この人だけが暴走していない。となると、マレディのアルテファットが原因? 考えられる可能性は、だけど」
「それがわからないからねぇん。トラウマもぉ、左腕消失の時のものでしょぉ? ルーチェちゃぁんは何か思いつかないのぉ?」
マスターは左手でオリチェを撫でながら、右手で自分の顎に手を当てつつたずねてきた。手の下にいたオリチェはいまだに震えていた。ディスプレイ機器へと目を向けることはできていないようだが、ルーチェたちの顔を見ることはできていた。
「仮にこのマレディという人が姉さんだったとしても、アルテファットの想像は難しい。トラウマの原因になった事柄にどう感じたか……それが能力につながることもある」
「確かにねぇん。まさにぃ、何をもってぇ、といったところよねぇん」
はい、と一言答える。誰も口を開くことはなくなり、ディスプレイのニュースの音だけが続いていた。
「……ルーチェさん。残りのデータを見てみましょう。他に手がかりがあるかもしれません」
「わかった」
マレディの画面を閉じ、被験者リストを最後まで確認する。しかし、そこに並んでいたのは失敗と制御不能の文字だけだった。ルーチェは仕方なく、画面を閉じる。
リストの下には研究の現状報告、というものがあった。そのデータを選択するルーチェ。
そこに表示されたのは文章だけだった。
「……現状、アルヴィネンサはファンタズマドローレ自体を完全に抑え込むことはできている。しかし、その薬効が切れた後に、アルテファットの制御ができなくなり、やがて自壊する被検体がほとんどだった。自壊を免れた被検体も制御不能の状態になって以降、意識消失をするまでアルテファットの力を使い続けていた」
ポラーレが表示されている文章を淡々と読み上げていた。メガネのレンズに反射した文章が写っていた。ポラーレは続けた。
「意識消失後、個人差はあるが一定時間を経て、覚醒するがその時にはファンタズマドローレの発現を確認。アルヴィネンサによる抑制は一時的なものになっている」
「つまりぃ、コレって効いてないってことよねぇん?」
「そう、なりますね。この副作用を見る限り、他社の抑制剤の方が余程まともに見えます」
神妙な面持ちでマスターの言葉に答えたポラーレ。マスターも口調とは違い、表情は引き締まっていた。
「まだ続きがある。以上のことから、アルヴィネンサはさらなる改良が必要である。そのようにピディーグ博士に進言した。記録者の名前はない。これを書いたのはあの研究員のこと?」




