忘れていた音 7
「ルーチェさん。名前がリナシッタさんの名前ではない以上、別人と考えるべきなのかもしれません」
ポラーレが画面に視線を向けながら、ルーチェに伝えてきた。大きく息を吸い込んでから、目を閉じるルーチェ。口から細く細く息を吐き出しながらディスプレイ機器へと視線を戻す。そこに写っていたマレディと記された女性を見る。
「……顔の形や瞳の色が姉さんと一緒……」
画面を操作していく。マレディもガンビーザと同じガウンのような白い服を着て、画像を撮られていた。露出している部分で左手だけがわずかに血色が悪かった。ルーチェはそこをじっと見ながら口を動かす。
「アルテファットの位置も同じ……。でもそれにしては、血色が良い? 何か他にデータは……」
独り言を続けながら、ルーチェは画面を動かし続ける。向きを変えての画像が続いた。左を向いた画像が出た時、画像の左手とルーチェ自身の右手を見比べる。血色はルーチェの右手の方が紫色に近いものだった。
やがて画像は終わり、マレディの身体データが写しだされた。
「生年月日、不明。身長、一七〇センチ。体重、五三キロ。アルテファット、左腕で能力不明。トラウマは左腕消失時の痛み……か」
「ルーチェさん。どうですか?」
ポラーレがルーチェの反対側から画面を見ながらたずねてきた。ルーチェは視線を横にずらしポラーレへ向ける。ルーチェには、ポラーレのレンズの向こう側の目がわずかに細く、鋭くなっていたように見える。のぞき見たことを気づかれないようにすぐに視線を画面に戻す。
「見えている分のデータについては、リナシッタと同じ……」
「その下は……どうやら、実験経過になっているようですね。投薬の結果、一回目の投与後、トラウマの抑制効果が一部あり。その後、アルテファットを暴走させることはなし、ですか……」
「ポラーレ、一つききたいんだけど?」
「何でしょう? ルーチェさん」
ルーチェとポラーレが画面からお互いを見ることに切り替えた。ルーチェはわずかに眉間を寄せて鋭いものになっているが、ポラーレは目じりを下げて柔和なものになっていた。
「姉さんのアルテファットは何? あなたに教えられないままになっていたけど……」
「リナシッタさんのアルテファットですか……」
ふむ、と小さくつぶやきながら、ポラーレが着ていたスーツのジャケットを探り始めた。やがて一冊の手帳を取り出した。表紙がくすんでしまっているが、クリーム色の手帳。それを開き、パラッパラッとページをめくり始めた。
「そういえばぁ、わたしも聞いたことなかったわねぇん。アルテファットになってからぁ、会ったことなかったしぃん」
「私も姉さんとはずっと会ってない。最後は右腕を失くした時……」
ルーチェが右手を握りこむ。しかし、視線はポラーレに向けられたまま。




