忘れていた音 6
オリチェを除く三人は、声を上げたまま固まった。その様子を感じ取っていたオリチェもまたディスプレイを見た。
そこに写っていたのは黒髪の女性だった。
「こ、この人がどうかしたんですか?」
オリチェが三人の顔を見渡しながらきいてきた。ポラーレとマスターがルーチェへと視線を向けていた。それにつられるようにして、オリチェもまた視線で追ってきた。
ルーチェは画像から目を離せないでいる。瞬きすら忘れ、見開いた目でじっと見据えている。
「…………」
「ルーチェ、さん?」
おそるおそるオリチェが声をかけてきた。ルーチェは視線をまったく動かさない。
「オリチェちゃぁん……」
「だってマスター。ルーチェさん、すっごい辛そうな顔してますよ……」
オリチェの声は震えていた。そのオリチェを、わかってるわよぉ、と言いながら抱きしめていたマスター。
「ルーチェさん……他人の空似、ではないですよね? あの、廃ビルの後でみたのは……」
ポラーレが言葉を切りながら、それでもしっかりとした口調で問い質してきた。
それに対して、ルーチェはただ黙って首肯をする。
「この人……だと思う……でも……」
「彼女ではない、と?」
「……姉さんじゃない、と思う」
ルーチェは首を横に振りながら、言う。
「髪の色も違うし、雰囲気も違ってる……」
「それは画像だから、ということはありませんか? あるいは時間が経っているから……」
「そんなはずない! 私が姉さんを……リナシッタを間違えるなんてことないッ!」
声を荒げ、テーブルを叩いて否定するルーチェ。音はあまりに大きく、イスを蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がる。ルーチェの勢いに押されたポラーレは身体を後ろに引き、背もたれにぶつかった。
「落ち着きなさぁい、ルーチェちゃぁん」
立ち上がることなく、ゆっくりとした口調で話しかけてきたマスター。しかし、見上げられたその目にはわずかな揺れが潜んでいた。
ルーチェが小さく息をした。
「落ち着いて……ます」
声のトーンが下がり、ゆっくりとイスに身体を預けるルーチェ。座り込んだまま、宙に浮かぶ画面をじっと見る。そこには黒い髪でわずかに目が細い女性が写っていた。
「マレディ……」




