忘れていた音 5
ポラーレが声のトーンを上げて、ゆっくりと答えた。その言葉を受けても、顔をあげることができないでいるルーチェ。
「それでも……」
口を開いてみる。しかし、ルーチェは次の言葉を続けることができない。俯いたまま、テーブルを見続けている。ルーチェの耳に自分の呼吸の音だけが響いていた。
「オリチェちゃぁん。ちょぉっとだけ、ごめんねぇん」
その言葉とともにイスがガタリと揺れて音がした。すぐに、ルーチェの見つめるテーブルに影が差し込んできた。ルーチェは動けないまま、テーブルの変化を見ている。
「ルーチェちゃぁん」
名前を呼ばれたルーチェ。続けて背中に温かいものが当てられた。ルーチェの身体が小さくはねる。
「わたしはぁ、何があったのかぁ、わからないけれどぉ、聞いてるとぉいろんなことがいっぺんにぃ起きたんでしょぉ?」
マスターの声にゆっくりと視線を上げるルーチェ。そのタイミングに合わせて、マスターに顔を両手でつかまれた。グイッと顔の位置をマスター側へと向けられる。ルーチェの目にはマスターの顔が大きくうつっている。
「やっとぉ顔をあげたわねぇん」
「マスター……」
小さな声で返答をするルーチェ。
「今は前を向いてねぇん。何にもできなくなるわよぉん」
そのマスターの言葉に小さく頷くルーチェ。
よし、と言って、オリチェの横に戻っていったマスター。元のようにオリチェを抱きしめた。
「ルーチェちゃぁん。続けてねぇん」
穏やかな笑みを浮かべて、ルーチェへと視線を送っていた。
首をそらして目を閉じる。一つ息を吐き出してから、浮かぶディスプレイ端末に視線を戻す。
リストを動かしていると、失敗でも制御不能でもない単語が目に入る。
「抵抗……」
口にしたルーチェに反応するように、ポラーレとマスターが画面に視線を向けた。ポラーレの目は見開かれ、マスターは眉間にしわを寄せていた。
「抵抗……ですか。この人だけ違和感がありますね……。名前は、マレディ? さんですか。ルーチェさん。開いていただいても良いですか?」
「わかった……」
頼まれるままにマレディのデータの中身を開いていく。
「!」
「ど、どうして!?」
「どういうことぉッ!?」




