罠だらけのビル
割れているガラスの尖端に触れないよう、小さく跳び、空中で体を小さくして通り抜けるルーチェ。ペルデの方は別の場所からガラスを叩き落しながら侵入していた。着地と同時にガラスと地面がこすり合った音が響いた。
「どうかしましたか? お二人とも?」
「人がいた! ポラーレ、通信切るよ」
「あっ、ちょっ」
ルーチェは言い終わるよりも早く通信端末の通信をオフにし、ジャケットの内ポケットに放り込む。素早くルーチェは左右を確認する。ビルの中は右にも左にも通路があった。白い影はペルデが入り込んだ左側にいた。ルーチェもまた左側に足を向けようとする。それよりも早く、ペルデが左の通路に走りこんでいた。
その背中にルーチェが声を投げつける。
「共同戦線だ!」
「はッ! 何が共同戦線だ! 早いもん勝ちだッ!」
ペルデは背を向けたまま大声を返してきた。それはルーチェの提案とは異なっていた。
「ちっ!」
舌打ちをして、ルーチェは転身。右側の通路に走っていく。
通路は人一人がすれ違う程度の広さしかなかった。それに加えて、片付けもされずもともとビルの中に置かれていたダンボールや棚がより一層通路を狭めていた。明かりもないため、先がみえにくくなっていて、進もうにも障害物をよけながらでないと進むことができなかった。
細くなった通路に速度を落としながらも走りこむルーチェ。前についた足が二歩目に進むために浮かせた時だった。ルーチェの足のスピードが落ちる。
「なっ?」
ルーチェの口から思わず声が漏れる。足元に目をむけると、黒い色のひもが一本、壁と壁をつなぐように渡されていた。ひもはビルの中の暗さに合わせられているかのような色で、ルーチェはまったくとらえることができなかった。
反射的に手をつこうと前に右手を出す。
「っ!」
声にもならない悲鳴をあげるルーチェ。手をつくであろう場所には、何本もの建築用の芯棒が立っていた。それはまるで針山のようになっていて、そのままであれば串刺しになりかねない。
しかし、出した手をひくこともつくこともできない状態で、らせん状に溝が掘られているそれをつかむ。ルーチェの体が流れるのに対して、固定された手の平から赤いものがにじむ。
「くっ」
勢いがわずかにたりないと感じたルーチェは、芯棒をつかむ手に力をこめる。手がさらにぬめりを増すが、穴だらけになるよりもそちらを選ぶ。片手ハンドスプリングの要領で勢いのままに芯棒の上を通る。ルーチェは動く視界の中で、それらを越えた瞬間に手を放す。残った勢いが体をさらに先に進め、芯棒の伸びる針山を越える。着地の瞬間、思った以上の大きな音が響いた。
「はぁはぁはぁ。じょ、冗談じゃない……。まるっきり殺すつもりじゃない……」




