忘れていた音 4
ルーチェが声を上げる。決して大きな声ではないが、全員が注目するには十分な大きさのもの。
「この被験者リストに名前があるということは……彼も被験者だった、ということでしょう」
ポラーレが静かに告げた。
ルーチェが画面を操作すると、ガンビーザの全身写真が現れた。白いガウンのような服を着ていた。左脚は右足と違い色が紫色で太さも倍ほどあった。
「こんなのにぃ、蹴られたっていうのぉ! よく生きてたわねぇん、わたしたちぃ。それにこいつが着てるのってぇ、病衣かしらぁん? いったいぃ、どこなのかしらねぇん……」
「三人とも蹴られたんでしたよね? よくご無事で……」
「ポラーレちゃん。何とかやってるからぁ大丈夫よぉ。蹴られた憎しみはあるけどねぇん。それよりぃ、ポラーレちゃんはぁ、この病衣ぃ見覚えないのぉ? 分かればぁ調べられるんだけどねぇん」
マスターが画面から目を反らしていたオリチェを抱えながらたずねてきた。何度か、オリチェが画面の方に目線を向けようとしていたが、その都度、マスターが手振りや身体を動かして遮っていた。
反対にポラーレはじっと画面に映っていたガンビーザを見ていた。それから、ゆっくりと首を横に振った。
「申し訳ありません。どこにでもあるものということもあって、覚えはありません」
「……そうなのねぇん。残念だけどぉ、わかったわぁん」
「背景もどこかの壁だけど特徴はない……他のデータを見るしかないかな」
二人から同意を得るよりも早く、ルーチェは画面を操作して再び被験者リストへと戻す。リストを見続ける三人。黙々とその作業は続けられた。
「どうして……」
ポツリとルーチェがつぶやく。
「どうしました? ルーチェさん」
その小さなつぶやきにポラーレが反応を示した。ルーチェが画面からポラーレに視線をずらす。
「いえ……どうして気づかなかったのかと思って。何度も通信端末は見ていたのに……」
独白をするように告げるルーチェ。ポラーレもマスターも、怯えていたオリチェですらルーチェを見た。ルーチェはその視線から逃げるように、自分の視線をテーブルに下げていく。
「…………仕方ありませんよ。お聞きした限り、黒い獣と一緒にリナシッタさんを見つけたのでしょう? そちらに意識が向くのは当然だと思いますよ」




