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廃れた地区 3

 ルーチェは目の前の廃ビルから視線を下ろす。そして、それは鋭く、射抜くように見る。視線の先にはさっき別れたはずの男が立っていた。


「ルーチェッ。てめぇ、どうしてここに来たぁ?」


「私の目的はこのビルの中だから」


 ルーチェのところに飛んできたのは、ペルデの岩のような拳。わずかに反応が遅れたルーチェは、右足をほんの少し下げながらそのまま体重を右足にのせる。沈み込んだ状態になり、そのまま流れるように右手をジャケットの横から腰へと滑り込ませる。ルーチェの左こめかみの横を風切り音とともにペルデの右の拳が通った。通り過ぎた後、遅れてゆっくりと皮膚が細く裂け、血の雫が垂れる。


「もしかして、かぶったのかぁ? どうなんだッ!」


「知る――」


 反論を口にしようとしたルーチェのジャケットの左ポケットが振動していた。拳を避けた不自然な体勢のまま、左手をポケットに入れ通信端末を取り出す。


「こんなときに通信端末にでるなんざぁ、いい度胸だなッ!」


 怒鳴りながら右腕を捻りこもうとするペルデ。ルーチェはペルデの動きを止めるために左腕を上げる。そのままペルデの右腕を抑えつつ、口を開くことなく、通信端末の画面を一瞥。左腕を抑え込んだまま、画面をペルデの眼前へと突きつける。


「何だっつうん…………くそっ、あいつからか」


 ペルデの声が舌打ちとともに徐々に勢いをなくししぼんでいった。ルーチェは震え続ける通信端末を片手でくるりと回し、デフォルトのスピーカーを解除して耳元へと持っていく。


「ああ、ルーチェさん。すぐ出ていただけなかったので、心配しました。もう現場には着かれましたか?」


 通信端末からのんきな声がルーチェの耳に届く。今度は驚かなかったので、映像通信にはなっていないようだ。ルーチェは相手に聞こえないように小さくため息をつき、それから口をひらく。


「現場には着いたよ、ポラーレ。こんなところに対象者が本当にいるの? あと、一つ問題が起きている」


 ルーチェは抑揚をつけずに淡々と告げる。


「いると聞いていますが……それより問題というのは? いったい何ですか?」


 ポラーレはルーチェの態度に気づいているのかどうなのかわからない反応を返してきた。嘆息と苛立ちをのみこみ、あくまで平静を装ってルーチェは続ける。


「ペルデがいる。もしかして、今回の依頼、複数に頼んだ?」


「いえ。そのようなことは……。ルーチェさん。ペルデさんとかわってもらってもいいですか?」


「……わかった。ペルデ、ポラーレがアンタにかわれって」


 壊すなよ、と一言付け加えながら、ペルデに自分の通信端末を渡すルーチェ。右手で半ば強引に奪われ、通信を交代させられた。そのペルデの動きを、ルーチェは眉間にしわを寄せながら見ている。


「ポラーレさんよぉ。いったいどっから依頼を持ってきたんだぁ? はぁ? そっからの依頼だって? ああ、俺ぁ直接依頼があった! どうゆうこったぁ? 二股か、あいつらッ!」


 ペルデとポラーレの話を聞くルーチェ。ただ、その瞳ははっきりとペルデをにらむ。同時に通信端末の方もにらみつける。その視線に気づいたペルデは、見下ろすようにしてルーチェをにらみ返してきた。互いに嚙みつきあうような視線。


「はぁ? 知らねぇだってぇ? あんたが知らねぇなんてどういうこったッ? 依頼主は一緒じゃねぇかッ! なのに知らねぇとかどういうつもりだッ? おいッ! ポラーレ!」


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