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失ったもの

 断続的に続く振動とともにガラガラという音が響いている。


 白いものが続く中で、時折強い光を放っているものがある。ぼんやりとした世界の中でルーチェは、その光を感じている。ただ、それが何なのか。それを深く考えることはできなかった。ルーチェ自身がどうなっているのか。それを考えようとしても、頭にもやがかかっているようで、思考がまとまらずに消えていく。


 何か考えがあってのことではないが、ルーチェは視線を動かしてみる。反射的な行動といっていいほど、無意識に周囲を知ろうとする。


 しかし、普段の感覚と何かが違っている。目の動きはひどくゆっくりで、なかなか動かせない。


 そんな中でルーチェの視界が最初に捉えたのは、青色。薄いな、と思う。その薄い青色は縦に細長い。その薄い青色の横に別の青色があった。青と青の間には白があった。さっきまで見えていた白とは少しだけ違い、やや暗めに感じる。


 さらに視線を動かす。同時にルーチェは自分の体も動かせないかと体に力を入れようとする。しかし、動かすことができない。そもそも力が入らない。


「…か……で…さい」


 どこからか、きこえてきた音。ぼんやりとした音。ガラガラとは違う気がルーチェにはしている。どこからだろうと、音の出先を探そうとするが、ルーチェにはわからない。


 どうすることもできず、目を動かすと白いものがずっと続く方に視線が戻る。さっきと同じように時々強い光を感じる。その光をさえぎるように薄い青色が現れた。すべてが青色ではない。一部が白よりもやや色がついていて、その中に黒いものが二つ、少し離れて並んでいるのが見える。


 人の目。


 ルーチェの中でなぜかその認識が浮かぶ。


 その青い人物の顔と思われるものが大きくなった。大きくなったことで黒が目だということがわかる。


「きこ……すか? 今は動……い……ださい」


 さっきも聞こえた音。幾分、はっきり聞こえる。どうやら、声は目の前の青い人物が出しているらしい。


 ルーチェはなんとなく動くなといっているのではないかと思い、動かせているのかどうかもわからないが、感覚として首を縦に動かす。


 ガタンッ。


 その時、大きな振動が伝わってきた。何かが起きたが、それが何かまではわからない。


「大丈……すよ」


 青い人から声が聞こえた。何かあったのだろう。それを確認することもできない。尋ねようと口を動かそうとするルーチェ。わずかに入った力で声を出す。


「……ぁ……」


 出せた声は、声にすらならず、周囲の音にのみこまれていった。青い人物の顔も今は見えない。ぼんやりとした視界も変わらない。


 揺れは続いている。


 ぼんやりとした頭は変わらない。ただ、そんな中でルーチェは自分の体に力が入らないことへの疑問が芽生えてきていた。思考がうまく回らない。何が起きたのか思い出すこともできない。感覚としてあるのはゆっくりと動かせる目と聞きとることができていない耳、振動を感じていることの三つ。


 動かすこともできないルーチェの体。何かが欠けてしまっているのかもしれない。


 ルーチェの思考がわずかに戻る。何が起きているのか知りたい。しかし、それは思考だけでそれ以上にはならない。


「お願い…………動……いで」


 さっきの声がきこえてきた。お願い、だけははっきりときこえた。何が、お願い、なのか。


「どう………したか?」


「いえ。こちらの患者…………度か動こ…………ていたので、…………動かれる……険なので、………………に声をかけ…………です」


 こんな時でもなんとなくだが耳はきこえるんだな、とよくわからないことを考えてしまうルーチェ。さっきまでとは違う声が混じっている感じがする。


「声を…………?」


「かま…………が、…………の負担になり…………手短に。このまま移動しな……そこの……室に入るま…………いします」


「ありが…………います。……ルーチェ。こちらのこ…………りますか?」


 ルーチェの名を呼んだ声。ルーチェはその声を聞いたことがあった。目を動かすと青い人以外の色がみえた。黒色か、とルーチェは思う。


「すいませんが、そろそろ…………なります」


「ああ、………………。ルーチェ。あなた…………大変申し…………思って…………間に合わ…………こちら…………

怨んでもらっ………………せん。ですが、あなた…………いたい。…………治療を今から…………もらい……」


 ぼんやりとした感覚の中できこえていた言葉。いまいち理解できなかった。


 空気の抜ける音がどこかからきこえた。


「ここでお待ちください!」


 鋭く聞こえた言葉とともにみえていた壁の色が少しだけ変わった。同じ白だがどうしてかさっきよりも強い。


「お願いします!」


 大きな声がきこえた。それがどこからなのかはわからないが、もうきこえない。


 ガラガラという音が止まる。大きく何かを合わせたような音が振動とともに響いた。


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