第9話 上官としての努め
ドンッ!!
予想通り、医療室の扉がまるで紙のように跳ね上がった。
「おいィィィ! 一希!! 生きてるって本当かァァッ!!!」
豪快な声と共に、巨漢のダガンがずかずかと部屋に踏み込んできた。後ろにはミレリアが苦笑しながらついてきている。
「いや、もうちょっと静かにしろって……ここ医療室だぞ?」
「細けぇことはいいんだよ!! ったく、無茶しやがって……」
ダガンは俺のベッドの脇まで歩み寄ると、不器用に腕を組み、難しい顔をした。
「……部下の前で無理してカッコつけてんじゃねぇよ、師団長。俺らが支えるから、信じてくれりゃいいんだ」
その言葉に、不意に胸がじんとした。
「お前が俺を使えるか見定めたかったんだろ?」
「はっ、部下の為に自分の命を捨てるバカはつかえねーよ!」
ダガンはどかっと椅子に座り、ニカっと笑った。
「けどよ、お前がぶっ倒れてた間――師団全体、ぴしっと締まってたぜ。リュミエールも、ミレリアも……特に第二連隊のエルフ連中なんざ、鬼のように魔物狩り始めてな」
「えっ、それってもしかして……」
「"師団長に傷をつけた魔物、万死に値する"って言ってたぞ、あいつら」
「俺の命、割と重くなってきたな……」
「当然です、一希殿」
ミレリアが落ち着いた声で補足する。
「あなたは、私達の師団長ですから。……多少の下ネタと非常識は目をつむりますけど、死ぬのは許しません」
「そ、それ褒めてる? けなしてる? どっち!?」
三人で笑い合ったその時、不意に窓から差し込む光が眩しかった。
――生きている。仲間がいる。
どんな強敵が来ようとも、こいつらとなら戦っていける。
そんな確信と共に、俺は少しだけ目を閉じた。
「……しかし着任したばっか仕事が溜まっているんだよなぁ」
「休め、師団長。俺達ができるやつはやっておく」
と、ダガンが背中をぽんと叩く。
「そして各部隊に謝罪をしないとですね、師団長殿?」
ミレリアはにっこり笑って恐ろしいことを言った。
「それはそうだな」
「当然です、では私は書類整理してきます!」
「俺も第一連隊の報告書を書いてくるとするかな」
「おう、お前らありがとな」
こうして二人は部屋をでていった。
しかし気になる点が一つある。
俺の手にあった白い羽根。
普通はハーピィの物だと思うが私を運んでくれた子たちは水色やピンクの子だった。
ならこれは一体なんだ?
俺は疑問になりながら少し眠りについた。
――そして、翌日。
俺のベッドの上には山のような書類と、リュミエール謹製:戦術演習計画50ページ”なる地獄の束が乗っていた。
「では一希殿、頑張ってくださいね?
「もういっぺん足折っとくか」
俺は絶望のあまり足を折ろうとしたが、ミレリアに止められた。
「離してくれぇ!俺はこんな重労働したくないんだぁ!」
「だめですよ!仕事ですから!」
俺は執務室から出ようとしたがミレリアに掴まれ、無理やり作業させられたのはまた別の話……