第7話 戦闘開始!(後編)
風を切る号令の中、兵たちは一斉に動き出した。
ダガン率いる第一連隊は鬨の声を上げながら正面から魔物の群れへと突進していく。盾を構えた前衛、槍を構えた中衛、軽装備だが機動力がある後衛――粗暴なようで、その動きには統率があった。
「突っ込めぇぇぇッ!野良なんざ、朝飯にもならねぇんだよぉ!!」
ダガンの咆哮と共に、第一連隊の猛攻が始まる。重装歩兵が魔物とぶつかり、金属のきしむ音と獣の叫びが響いた。
その隙をついて、俺はミレリアを引き連れ、選抜した別働隊を率いて左翼の丘を駆け上がる。足元には冷たい霜が残り、兵の呼吸も白く曇っていた。
「皆、足を止めるな!包囲するまであと少しだ!」
「了解です、師団長!」
そしてミレリアは脇で短剣を抜きながら走る。戦場でも冷静な判断を崩さない姿は、まさに副官の鑑だった。
一方、丘の反対側。リュミエール率いる第二連隊の魔法兵と弓兵が、高地から正確な射撃を開始する。
エルフたちの放つ矢は風に乗り、獣の額へと突き刺さり、竜人たちの火球が魔物の群れに炸裂する。
そして後方支援として狼人やドワーフ達が矢などの弾薬を補充していた。
「敵後列に集中射撃。前衛が崩れたら一時後退させて。…焦らず、確実に削っていきましょう」
リュミエールの落ち着いた支援のおかげで、ダガンが率いる第一連隊は着々と敵前衛を削っていく。
前衛・高地支援――二方向から包囲された魔物たちは、次第に混乱し始めた。統率のない野良共は、もはや群れの体をなしていない。
「いけるぞ……よし、突撃だッ!!」
俺は先頭に立って突撃の合図を送る。ミレリアも叫び声と共に兵を先導した。
「第二波、続けッ!指揮官殿が前に出てるんです、恥ずかしくない戦いをなさい!!」
ミレリアの檄に、兵たちが喝を入れられる。
こうして包囲部隊は後方から混乱した魔物を切り裂いていく。
「お前ら!完全包囲じゃないぞ!奴らが逃げれるスペースを開けて包囲しろ!」
「了解!」
そう、完全包囲をしてしまうと敵は簡単に殺されるなら最後まで戦うという心理状態になってしまう。
それを防ぐために包囲に穴を少し開け、まだ逃げれるという心理状態にする。
こうして戦っていると前衛にいるはずのダガンがこちらへ走ってきた。
「お前らだけ美味しい思いはさせない!」
「だ、ダガン!お前は正面を抑えるんじゃなかったのか!」
ミレリアは叫ぶとダガンは返した。
「正面は大丈夫だ!最近暴れてなかったからな!兵士たちは大喜びだ!」
そうしてダガンが敵を斧で裂けながらこちらへ来ると、ダガンの方に大きな岩が投げ込まれた。
おそらく大きな魔物が最後の足掻きを見せたのだろう。
「危ないダガン!」
俺は素早くダガンに駆け寄りダガンを押し倒した。
「くっそ……っておい師団長!おい兵士ども早くこっちへ来い!」
そう、俺は大きな岩が足に挟まっており身動きが取れない状況であった。
「だ、ダガン。無事で良かったよ……」
「何を言ってるんだお前は!部下の為に命を投げ出しやがって!」
そう言いながらダガンは俺の岩をどけようとした。
「指揮官という者は部下の命を最優先するものだ。で、どうだ?俺は使えるだろ?」
俺はダガンに笑顔で言ってやった。
「クソがぁぁぁぁぁ!」
ダガンの筋肉がはち切れそうになりながら俺の足の上にある岩を退かした。
「おい!リュミエール!ハーピィを連れて師団長を医療部隊におくれ!」
リュミエールは今までの冷静が嘘と思えるぐらい同様をしていた。
「わ、分かった。聞いたでしょ!今すぐ師団長を助けるのよ!」
そうするとハーピィ達がダガンから一希を持ち上げ医療部隊の方まで飛んでいった。
「第一連隊に告ぐ!俺等の大将の仇だ!」
そうダガンが叫ぶと第一連隊の士気は物凄く高くなり敵を殲滅していった。
「おい嬢ちゃん、お前も戦うんだ!」
ミレリアは放心状態になっていたがダガンの掛け声で戻ってきた。
「わ、分かったわ!包囲部隊!今すぐ敵を潰すのよ!」
こうして俺はハーピィに連れて行かれながら意識を手放したのであった。