第6話 戦闘開始!(前編)
翌朝。冷たい風が砦を吹き抜ける中、俺は執務室の机にかじりついていた。
地図。補給状況。各連隊の戦力一覧。
第二連隊と第一連隊の提出した詳細な報告書を見ながら、連隊の維持について頭を悩ませていた。
「第一連隊のやつら酒と飯食いすぎだろ……」
俺は朝早くから書類整理をしていた。
異世界転生ってのはもっと美女に囲まれて魔法とか使ってモテモテになるんじゃねーのか・・・
そう愚痴をこぼした瞬間扉が乱暴に叩かれた。
「報告! 西の監視塔から緊急伝令です!」
バタンと扉が開き、警備兵が息を切らしながら飛び込んでくる。
「おいおい、朝っぱらから何だってんだよ……」
「西の丘陵地帯にて――野良の魔物の群れが出現!数、約七十体以上!進行方向は砦の西門付近!」
ここに来て初めての実戦になりそうだ。
「わかった。部隊は動けるか?」
「現在、ダガン殿が兵士を集めて出撃準備をしております!」
「第二連隊は?」
「第二連隊も出撃準備をしております!」
「……よし、私も行こう。ダガンとリュミエールを前線司令部に呼んでくれ」
「了解!失礼します!」
警備兵が出ていくと入れ替わりのようにミレリアが入ってきた。
「一希殿!どう対処するのですか!」
「ああ、ミレリアか。まずは落ち着け、可愛い顔が勿体ないぞ」
そういうとミレリアは顔を真赤にして下を俯いた。
「まあ作戦は簡単だ。第一連隊が敵の正面と交戦し別働隊が回り込む、そして第二連隊がそれらを支援だな」
「そ、そんな簡単に行きますか?!」
俺はすぐさま立ち上がり、戦術用地図を指差した。
「ここは平地があり高地もいい感じにある。支援部隊を配置し機動性を失わず敵を包囲殲滅すればいいだろう」
「しかし兵達の士気は……」
「大丈夫だ、あいつらを信じよう。とりあえず俺達も前線司令部に行くぞ」
こうして俺とミレリアは前線司令部へと向かっていった。
前線司令部は、西門から少し下った小高い丘の上にある仮設指令テントだ。見渡せば、平地の先に黒い点のような魔物たちの群れが蠢いている。
「……思ってたより多いな。七十どころじゃねぇぞ、これ」
ミレリアが望遠鏡を覗きながら表情を強張らせる。
「隊列なし。統率もない。ただの飢えた群れだが数は多い……」
俺は地図を再確認し、ダガンとリュミエールを待った。
ほどなくして、重々しい足音と共にダガンが現れた。
「うおおおお! 野良共め、よくも朝っぱらから喧嘩売ってくれやがったな! なあ師団長よ、ぶっ潰していいんだよな?」
「もちろんだ。お前の連隊、戦えるか?」
「ああ、戦えるさ!お前が使えるかどうかも見たいしな!」
力強い言葉と共に、拳をあわせる。
その直後、風が揺れたかと思うと静かな足音が背後から近づいてくる。
「――遅れて、申し訳ありません。一希殿、状況は?」
振り返れば、銀髪を風に揺らしたリュミエール・エリシア。白い軍装に身を包んだその姿は、まるで戦場に舞い降りた天使のようだった。
「敵数、推定百。だが野良で統率なし。こっちの作戦は――ダガンの第一連隊が正面から交戦。俺が別働隊を率いて左翼から回り込む、ミレリアは俺に付いてきてくれ。リュミエール、お前は高地から全体の支援を頼む」
そういうとリュミエールはムッとした表情になる。
「一希殿……指揮官が前線で戦うと言うのですか?」
「ああ、指揮官たるもの現場を知らずに指揮できるものかってな」
俺がそう言うと、リュミエールは小さく微笑みを返す。
「必ず生きて帰ってきてくださいね」
「任せろ。んじゃ、やるか。全隊、戦闘配置! 敵を包囲し、叩き潰す!」
俺の声が響くと同時に、号令が砦中に広がった。